メニュー

【平井公認会計士事務所】
医科特化の経営支援・医療法人化(全国対応)

クリニック経営 成功への道

個人クリニックは院長に退職金を出していいのか?退職金の準備方法を解説

個人クリニックは院長に退職金を出していいのか?退職金の準備方法を解説

はじめに:「自分への退職金」という素朴な疑問

「先生、自分自身に退職金を出すことはできますか?」

個人クリニックの院長先生から、開業して数年が経ち、経営が軌道に乗ってきた頃によくいただくご質問です。

長年勤め上げたスタッフには退職金を用意してあげたいと考える一方で、「自分自身の引退後の資金はどう準備すればよいのか」という悩みは、実は多くの個人開業医の先生に共通しています。

クリニックには、個人事業主として開業する「個人クリニック」と、法人化をする「医療法人」の2種類あります。

結論から申し上げると、個人クリニックの院長先生が、自分自身に退職金を支払っても、それを必要経費(事業所得の計算上の経費)にすることはできません

院長先生の退職金について、明確に答えられる人は少ないと思います。「開業医の先輩から退職金を出しておいた方がいいと聞いた」「顧問税理士に聞いても曖昧な答えしか返ってこなかった」という先生も少なくありません。

本コラムでは、退職金が経費にできない理由と、医療法人との違い、そして実務上有効な老後資金の準備方法を、医療専門の平井公認会計士事務所が解説します。

1.個人クリニックの院長は「自分への退職金」を経費にできない

なぜ退職金が経費にならないのか?

個人クリニックは、法律上「院長先生個人」がそのまま事業主です。院長先生とクリニックは同一人格であり、法人のような別人格は存在しません。

退職金という支出が経費として認められるのは、本来「ある人格が、別の人格に対して」支払うものだからです。

会社が従業員に退職金を払う、医療法人が理事長に退職金を払う、といったケースはすべて「支払う側」と「受け取る側」が別人格です。

ところが個人クリニックの場合、「院長先生」が「院長先生自身」に支払う形になり、支払う側と受け取る側が同一人格です。自分の財布から自分の財布にお金を移すだけの行為であり、事業のための支出(経費)とは認められません。

そのため、個人クリニックの院長先生がご自身に退職金として一定額を支払ったとしても、その金額を事業所得の必要経費に算入することはできません。

医療法人との違い

一方、医療法人の場合は話が変わります。医療法人という法人格と、理事長である院長先生個人は、法律上まったくの別人格です。

そのため、医療法人から理事長個人へ退職金を支給することは、別人格から別人格への支給として成立します。そして、その金額が税務上不相当に高額でなければ、法人税の計算上、損金(経費)として認められます。

医療法人の役員退職金は、国税庁の通達に基づく「功績倍率法」などの計算式で適正額が算定され、かつ受け取る個人側でも退職所得として、退職所得控除や2分の1課税といった大きな税制優遇を受けられます。個人クリニックにはこの仕組みがありません。

功績倍率法とは、役員の退職金を計算する際、退職直前の報酬月額に在任年数と役職に応じた倍率をかける算定方法です。

2.経費にならなくても、準備しておく意義は大きい

「経費にならないなら、退職金は関係ない」と考えるのは早計です。院長先生ご自身の老後の生活資金という観点では、勤務医時代のような退職金制度がない以上、意識的に資金を準備しておく必要性はむしろ高いといえます。

会社員であれば退職金や企業年金が用意されていますが、個人事業主である開業医の先生には、そうした仕組みは自動的には備わっていません。診療を続けられなくなったとき、あるいは引退を決めたときに、「手元に何も残っていなかった」とならないよう、開業当初から計画的に準備しておくことが重要です。

3.老後資金(退職金相当額)の準備方法

「経費にはならないが、老後資金として準備しておきたい」という場合、さまざまな方法があります。それぞれ税制上の取り扱いや流動性が異なるため、特徴を理解したうえで組み合わせて活用することをおすすめします。

預金でこつこつ積み立てる

もっとも手軽な方法は、クリニック名義またはプライベート名義の普通預金・定期預金でこつこつ積み立てる方法です。手続きが不要で、いつでも引き出せる流動性の高さがメリットです。

一方で、現在の金利水準ではほとんど利息がつかず、物価上昇(インフレ)が続く局面では、額面は変わらなくても実質的な価値が目減りしてしまうという弱点があります。また、所得控除などの税制優遇も一切ありません。

緊急予備資金としての位置づけにとどめ、老後資金の中心として頼りきるのは避けたい方法です。

小規模企業共済

個人事業主である院長先生にとって、老後資金準備の柱となるのが「小規模企業共済」です。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する、いわば「経営者が自分でつくる退職金制度」です。

掛金は月額1,000円から70,000円まで500円単位で自由に設定でき、その全額が「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除の対象になります(参考:国税庁タックスアンサーNo.1135)。年間最大84万円の所得控除となり、所得税率が高い先生ほど節税効果は大きくなります。

受け取るときも優遇されており、一括で受け取れば「退職所得」として退職所得控除と2分の1課税が適用され、分割で受け取れば「公的年金等の雑所得」として扱われます。掛金の範囲内で低利の事業資金貸付を受けられる制度もあり、いざというときの資金繰りにも活用できます。

小規模企業共済の注意点

加入資格は業種によって異なり、クリニックは「サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)」に区分されるのが実務上の基本です。この区分では、常時使用する正社員(家族従業員やパート・アルバイトを除く)が5人以下であることが加入の条件となります。スタッフの多いクリニックでは、加入時点でこの人数要件を満たすか確認が必要です。

任意解約の場合、掛金の納付月数が240か月(20年)未満だと元本割れします。長期継続を前提とした制度と捉えるべきでしょう。

医療法人は「非営利法人」に該当するため、医療法人化して理事長(役員)になると、小規模企業共済の加入資格を失います。個人クリニックのうちに加入していた場合は、法人化のタイミングで共済金Aとして受け取ることになりますので、医療法人化を検討されている先生は、当事務所にご相談のうえタイミングを見極めることをおすすめします。

院長先生ご本人だけでなく、奥様の分も準備できる

小規模企業共済は、院長先生おひとりだけでなく、「共同経営者」の要件をすべて満たせば、事業専従者である奥様も加入できます。共同経営者として認められるには、

  1. 個人事業主(院長先生)が加入資格のある小規模企業者であること
  2. クリニックの経営上重要な業務執行の決定に関与している、または事業に必要な資金を負担・出資していること
  3. その業務執行に対して報酬(給与)を受けていること
  4. 加入申込み時点で共同経営者であること

この4つをすべて満たす必要があります。単に専従者給与を受け取っているだけでは足りず、経営への関与の実態が求められる点に注意が必要です。

加入できる共同経営者は個人事業主お一人につき2人までで、共同経営契約書の締結など所定の手続きが必要になります。この要件を満たせば、院長先生ご本人に加えて奥様の分の掛金も別枠で所得控除の対象となり、実質的に奥様ご自身の退職金も準備できることになります。

iDeCo(個人型確定拠出年金)

iDeCoは、掛金を毎月積み立てて自分で運用商品を選び、60歳以降に受け取る私的年金制度です。個人事業主(国民年金第1号被保険者)の掛金上限は月額68,000円(年額81.6万円)で、国民年金基金や国民年金の付加保険料と合算した金額となります。

なお、2026年12月分(2027年1月引き落とし分)以降は、上限が月額75,000円に引き上げられる予定です。

小規模企業共済と同様、掛金の全額が所得控除の対象となるほか、運用期間中の運用益が非課税になる点が大きな特徴です。受け取り時も、一時金なら退職所得控除、年金形式なら公的年金等控除の対象になります。

運用商品は「元本確保型(定期預金・保険など)」と「元本変動型(投資信託)」から自分で選択でき、両者を組み合わせることも可能です。

元本確保型を選べば元本割れのリスクは避けられますが、口座管理手数料が利息を上回ることがある点や、低金利下ではインフレに対して実質的に目減りする点には注意が必要です。元本変動型(投資信託)を選ぶ場合は、運用成績によって元本を割り込むリスクがあります。

いずれの商品を選んでも、掛金の所得控除の効果自体は変わりません。原則60歳まで引き出せない点も踏まえ、小規模企業共済とは別枠で所得控除が受けられることを活かし、両方を無理のない範囲で併用する先生も多くいらっしゃいます。

参考:国税庁タックスアンサーNo.1135(小規模企業共済等掛金控除)

生命保険(一時払い終身保険・変額保険)

生命保険会社の一時払い終身保険や変額保険を活用し、老後資金や万一の際の保障を兼ねて準備する方法もあります。

保障機能を持たせながら資金を積み立てられる点、解約返戻金の一定範囲内で保険会社からお金を借りられる契約者貸付制度を利用できる商品がある点がメリットです。

商品によって解約返戻金の推移や税務上の取り扱いが異なるため、加入前に返戻率の推移や解約時期による元本割れの有無を必ず確認しましょう。小規模企業共済やiDeCoのような所得控除の効果は基本的にないか、あっても限定的(一般生命保険料控除等)である点も踏まえて検討する必要があります。

NISA・インデックスファンドでの運用

証券会社を通じてNISA口座を活用し、世界株式などのインデックスファンドで長期・積立・分散投資を行う方法です。新NISA制度では、非課税保有限度額が拡大され、運用益・分配金が非課税になるという大きなメリットがあります。

長期的には預金よりも高いリターンが期待できる一方、元本保証がなく、相場状況によっては資産が目減りするリスクを伴います。

NISAやインデックスファンドは、掛金の所得控除はありませんが、iDeCoと違って引退前でも自由に引き出せる流動性の高さが特徴です。老後資金の一部を、値動きのある資産で長期運用することでインフレへの備えとする、という位置づけで活用する先生が多い方法です。

4.比較のポイント

上記の方法は、それぞれ「所得控除の有無」「元本保証の有無」「流動性(引き出しやすさ)」「受取時の税制優遇」が異なります。一つの方法に偏らず、複数を組み合わせて準備することが現実的です。

方法 所得控除 元本保証 流動性 受取時優遇 特徴
預金 なし あり 高い なし 目減りリスク
小規模企業共済 全額 原則あり 低い 退職所得等 加入要件に注意
iDeCo 全額 商品による 60歳まで不可 退職所得等 運用益非課税
生命保険 一部のみ 商品による 中程度 商品による 保障を兼ねる
NISA なし なし 高い 運用益非課税 インフレ耐性

5.平井公認会計士事務所からのアドバイス

「個人クリニックはどのような退職金の積み立てがお得なのか?」ということですが、私たち平井公認会計士事務所では、個人クリニックの院長先生に対し、開業直後の資金繰りが落ち着いた段階から、

  • 小規模企業共済
  • iDeCo

この2つを軸とした老後資金の準備をご提案しています。

理由は明快で、この2つは「所得控除による現在の節税効果」と「将来の退職金相当額の準備」を同時に実現できる、数少ない制度だからです。

どれくらいの金額を積み立てたら良いのかは、クリニックの経営状況や先生の退職後の人生計画にもよります。

医療法人化を目指すときの最適化

あわせて重要なのが、医療法人化のタイミングとの関係です。

医療法人化のタイミング

開業当初は個人クリニックであったとしても、院長先生の所得が増えてきたら、医療法人化をした方が節税に有利になるタイミングがありあす。所得が概ね1,500万円を超えてくると、経費や節税などから医療法人化を検討する先生が増えます。

個人クリニックを医療法人化すると、小規模企業共済の加入資格を失います。そのため、「いつ、どのタイミングで法人化するか」によって、小規模企業共済で準備できる金額は大きく変わってきます。

個人のままにすべきか?医療法人化すべきか?

クリニックを個人のまま長く続けるべきか、医療法人化して理事長退職金の仕組みに切り替えるべきか、先生ごとの所得水準や将来設計によって最適解は異なります。

例えば、開業して数年で所得が順調に伸び、近い将来の医療法人化を視野に入れている先生であれば、小規模企業共済への加入は慎重に検討すべきです。

加入後まもなく法人化して資格を失うと、掛金納付期間が短いまま共済金Aとして受け取ることになり、想定していたほどの積立効果を得られない場合があるためです。

一方で、当面は個人クリニックとして経営を続ける方針であれば、開業後早い段階から小規模企業共済とiDeCoの両方に加入し、長期でコツコツ積み立てていくことが、税負担の軽減と老後資金準備の両面で有利になります。

※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務アドバイスではありません。ご自身の状況に応じた具体的な準備方法については、必ず専門家にご相談ください。

平井公認会計士事務所の強み

平井公認会計士事務所では、クリニックの税務や経営コンサルティングだけでなく、新規開業支援にも強みがあります。

  • 医療専門の会計士事務所なので、医療特有の会計処理に精通している
  • 福岡市内では約100件の開業支援実績
  • それらの開業支援実績に基づいた、実現性の高い事業計画の立案
  • 金融機関との交渉で信頼が得られやすい(融資が早く通りやすい)
  • 開業物件探しや内装設計も実績多数の専門とのアライアンスによりワンストップ対応
  • 開業後も黒字化や経営、経理の記帳代行、税務などを継続支援
  • コンサルティング支援開始まで、何度でも無料相談に対応

老後資金準備のご相談はお気軽に

「自分の老後資金は何から手をつければよいのかわからない」
「小規模企業共済とiDeCo、どちらを優先すべきか?」
「どれくらいの退職金を準備したらいいのか?」
「将来の医療法人化も見据えて、今のうちに何を準備しておくべきか?」
――そのようなお悩みをお持ちの先生は、ぜひ医療専門の平井公認会計士事務所までお気軽にご相談ください。

先生の診療に専念できる時間を守りながら、開業から引退まで、資金計画の伴走者として長期的にサポートいたします。オンラインで全国のクリニックからのご相談に対応しており、初回相談は無料です。

【医療専門の平井公認会計士事務所へのお問い合わせはこちら】

先生の理想の経営とゆとりある老後の実現に向け、今日から一緒に準備を始めましょう。

お気軽にご相談ください

【平井公認会計士事務所・無料経営診断のご案内】

オンライン面談にて全国のクリニックに対応可能です。まずは下記のお問い合わせフォームより、お気軽にご連絡ください。

(「コラムを読んで赤字対策の相談をしたい」とご記入いただけますとスムーズです)

お問い合わせ・無料相談はこちら

※ 医科特化のため、歯科の先生は原則対応しておりませんのでご了承ください

092-707-3678

(受付時間:9:00~17:30 土・日・祝を除く)

この記事の著者

日本のクリニックが、安心して医療に専念できる未来を。

平井公認会計士事務所
公認会計士・税理士:平井 恵介


医療機関・クリニック専門の経営支援・会計事務所
(福岡県福岡市/オンライン全国対応)

こちらのコラムもご参照ください

持分なし医療法人の事業承継方法:トラブルを避け退職金を最大化する戦略

持分なし医療法人は、持分という「売買できる財産権」が存在しません。そのため、どうやって正当な対価(譲渡代金)として退職金を受け取り、かつ買い手側の先生にスムーズにバトンを渡すべきかは、高度な財務・税務戦略が求められます。持分あり/持分なしの…

【医療法人化の目安とは?】クリニックを医療法人化するタイミング

クリニックを法人化するタイミングは、1.クリニックの「所得」が年間1,500万円を超えてきたとき、2.概算経費(措置法26条)が使えなくなるライン、3.分院展開・介護事業など“次のステージ”を見据えたときです。クリニックの法人化を、医科専門…

クリニック経営 成功への道

Copyright© 2026 平井公認会計事務所 All rights reserved.