医療法人で顧問契約すべき税理士の選び方7つのポイント
- 2025.12.8|クリニック経営 成功への道

医療専門の会計事務所が考える「後悔しないパートナー選び」
医療法人を運営されている先生、もしくは医療法人化を検討される先生のほとんどが個人の税理士もしくは会計事務所と顧問契約をされます。ちなみに、会計事務所とは税理士や会計士が所属する事務所のことです。
医療法人を運営されている先生、これから医療法人化を検討されている先生にとって、「どのような税理士や会計事務所と顧問契約をするか」は、実は思っている以上に重要なテーマです。顧問税理士のアドバイスによって、医療法人の運営や先生のライフプランにも大きく影響することがあるからです。
税理士は、単に決算書や申告書を作る“事務処理の外注先”ではありません。医療法人の経営は、
- 人件費や家賃など固定費の負担
- 医療機器の導入や更新
- 職員の採用・定着
- 分院展開や将来の承継
など、多くの判断が数字と密接に結びついています。また、一般的な企業とは異なり、特殊な判断要素も数多くあります。
医療法人特有の数字をどう読み解き、どんなアドバイスをしてくれるのか――。
ここで、顧問税理士の力量とスタンスが大きくものを言います。
医療法人専門の税理士に依頼することは基本としつつも、医療法人専門を名乗っていても力量とスタンス、支援内容に大きな差があるので、パートナーとして安心して任せられる顧問税理士を見極めることが大切です。
本コラムでは、医科に特化した平井公認会計士事務所の視点から、「医療法人が顧問契約すべき税理士の選び方」を、できるだけ具体的に解説します。医療法人に精通し的確なアドバイスをしてくれる顧問税理士をお探しの先生は、ぜひ最後までご覧ください。
ポイント1.医療法人化の手続きに慣れているか
まず、これから医療法人化を検討している先生にとって重要なのが、医療法人化の手続きをきちんとサポートできるかどうかです。
医療法人化のプロセスでは、
- 都道府県
- 保健所
- 厚生局
などへの申請・届出が必要で、提出書類も多岐にわたります。医療法人化に不慣れな税理士が対応すると、書類の不備やスケジュールの読み違いがあると、認可が遅れ、開業日や法人化の予定がずれ込んでしまうことも珍しくありません。
さらに、医療法人にとって重要なのが、健康保険の「適用除外制度」の理解です。本来、医療法人は協会けんぽ等への加入が義務付けられていますが、厚生労働大臣の承認を受けることで、その事業所の役員や従業員を健康保険の被保険者とせず、代わりに医師国保組合などの国民健康保険組合に加入させることができる特例があります。
この制度を知らずに手続きを進めてしまうと、
- 保険料負担が大きく増えてしまう
- 長期的に見て、医療法人のメリットを十分に享受できない
といったことが起こり、医療法人の利益を圧迫することがあります。
そのようなトラブルを防ぐために、契約を検討している税理士に、次のような質問をしてみてください。
- 医療法人化の手続きを何件くらい対応したことがありますか?
- 適用除外制度について、どのように対応していますか?
これらの質問に明確に答えてくれる税理士であれば、医療法人化のスタートラインで大きくつまずくリスクは減らせるはずです。
ポイント2.先生と同じ診療科目のクリニックを複数顧問しているか
一言で「クリニック」と言っても、整形外科、耳鼻科、皮膚科、小児科、婦人科、眼科、内科…とさまざまな診療科目があります。内科ひとつとっても、循環器内科、消化器内科、呼吸器内科、心療内科など分野が細かく分かれています。
実は、診療科目によってクリニック経営における「普通」「妥当」の基準がまったく違うということをご存じでしょうか。
例えば、
- 売上原価率(診療材料費・薬品費・検査委託費などの割合)
- 職員人件費率
- 利益率
- 繁忙期・閑散期の季節変動
これらは診療科ごとに傾向がまったく異なります。
●診療科ごとのイメージ
- 耳鼻科:冬場~花粉シーズンは非常に忙しく、夏場は患者数が落ち着く傾向
- 皮膚科:夏はあせも・水虫・虫刺され、冬は乾燥などで繁忙期が年に2回来るイメージ(さらに、3月前後は花粉症による皮膚炎の患者も増えます。)
- 美容皮膚科:夏の日焼けシーズンを避け、秋~春に自費治療が集中しやすい
こうした特徴を知らない税理士と顧問契約してしまうと、「今月は患者数が減っていますね、大丈夫ですか?」と、季節要因だけで不安を煽ってしまう一方で、本当に見るべき「単価」「回転率」「人件費率」の異常に気づけないことがあります。
先生が顧問契約を検討している税理士には、ぜひこう聞いてみてください。
私と同じ診療科目のクリニックを、何件くらい担当していますか?
目安として、同じ診療科を3件以上担当していると、その科目ならではの平均値・成功例・失敗例が見えてきます。その情報をもとに、「この数字は危険」「ここまでは許容範囲」といった、実務的なアドバイスが可能になります。
ポイント3.記帳代行をしてくれるかどうか
次に、意外と見落とされがちですが大事なのが、記帳代行をしてくれるかどうかです。
記帳代行とは、税理士事務所が医療法人に代わって、会計ソフトに売上や経費などの取引を入力してくれるサービスのことです。
近年、税理士事務所でも人手不足や人件費高騰が大きな課題になっており、「入力はクリニック側でお願いします。うちではチェックだけします」というスタイルの事務所も増えています。
一見すると合理的に聞こえますが、その分の負担は先生や奥様、スタッフの方に重くのしかかります。
診療が終わったあと、
- 領収証や請求書を整理し
- 勘定科目を考えながら会計ソフトに入力し
- 入力ミスがないか確認する
これを毎月行うのは、かなりの時間と精神的エネルギーを使い、作業効率も悪くなるので経費もかかります。経理の入力作業は、先生にとっても、スタッフにとっても「本来やるべき仕事」ではありません。
平井公認会計士事務所では、記帳代行を基本スタンスとして行っています。領収証・請求書・通帳コピー・レセプトデータなどをお預かりし、会計処理は当事務所側で完結させます。
先生の限られた時間は、
- 診療の質を高めること
- スタッフと向き合うこと
- 医療法人の将来を考えること
に使っていただくべきです。
「記帳はそちらでお願いします」という事務所か、「会計処理はこちらでやります」と言ってくれる事務所か――。
この違いは、長い目で見ると先生の負担感や経営のしやすさに大きく影響します。
ポイント4.給与や賞与について、数字に基づいたアドバイスをしてくれるか
スタッフの給与改定や賞与にいくら出すのかは、
- 経営へのインパクト
- スタッフのモチベーション
- 離職率
を大きく左右するため、安定的なクリニック経営を目指す上でも重要なテーマです。
しかし、残念ながら顧問税理士から明確なアドバイスがなくて、先生が「今年はこれくらいかな?」と感覚で決めてしまっているケースも少なくありません。
平井公認会計士事務所では、給与や賞与の相談を受けた際、必ず数字を使って説明します。
例えば、
- スタッフ一人の月給を1万円上げると、月間人件費が合計でいくら増えるか
- 人件費率(売上に対する人件費の割合)が何%から何%に変わるか
- 賞与総額を◯円にすると、人件費率は何%になり、利益がどの程度減るか
といったことを、直近の売上推移や社会保険料の負担も含めてシミュレーションします。
これにより先生は、「感覚ではなく、根拠をもって給与や賞与を決める」ことができます。
一方で、顧問税理士に給与や賞与の質問をしても、
「まあ大丈夫だと思いますよ」
「そこは先生のお考えで」
と、根拠のない返答しかしない税理士も少なくありません。
給与・賞与の相談にどこまで踏み込んだアドバイスをしてくれるかは、顧問税理士選びの重要なポイントです。
ポイント5.オンライン面談に対応しているか
最近では当たり前になりつつありますが、顧問税理士選びでオンライン面談に対応しているかどうかも重要です。
税理士事務所の中には、
「面談は事務所に来ていただいて対面のみ」
というスタイルを崩さないで、オンライン面談をしてくれないところもあります。
もちろん、直接会って話すことで得られる情報や安心感もありますが、
- 移動時間がかかる
- 診療スケジュールとの調整が難しい
- 感染症流行時に対面が負担になる
といったデメリットもあります。
オンライン(ZoomやTeamsなど)であれば、
- 昼休みや休憩時間の30分だけ相談する
- 手が空いた時間にスポットで打ち合わせする
- 画面共有で資料を見ながらその場で説明を受ける
といった柔軟な対応が可能になります。
オンラインでの面談にも対応していますか?
この一言を、税理士選びの際にぜひ確認してみてください。
ポイント6.医療機器の購入について、数字と現実の両面から相談に乗ってくれるか
医療法人にとって、医療機器の購入は非常に大きな意思決定です。医療機器の導入は、新しい患者さんの層を集患できる可能性があるものの、資金面での負担は大きいためです。特に美容皮膚科など自費診療が多い診療科では、「新しい機械を入れれば売上が伸びるのではないか」という期待もあり、メーカーからの営業も活発です。
ここで、医療機器を導入すべきかを顧問税理士に相談したときに、税理士のスタンスが大きく分かれます。
ある税理士は、
「今の預金残高なら買えますね」
「借入も減ってきているので、そろそろ良いと思います」
といった“財政状態だけを見た判断”をするかもしれません。
しかし、それだけで医療機器購入の判断をするのは非常に危険です。
●平井公認会計士事務所が必ず確認すること
当事務所では、医療機器の購入相談を受けた際、次のような点をヒアリングします。
- その医療機器は、患者さんからどの程度の期間ニーズが見込めるか(ブームの長さ)
- 一人あたりの施術単価はいくらか
- その施術にかかる原価(診療材料費など)は売上の何%か
- 施術は医師が行うのか、看護師が行えるのか
- 1日に施術できる人数・時間的な上限はどれくらいか
- 今の患者数・スタッフ数から見て、施術枠を確保できるか
これらを踏まえて、医療機器がどれくらい利用されて「何年で購入資金を回収できるのか」といった、収益性や投資に対する費用対効果を試算します。
例えば、
- 総額1,000万円の医療機器
- 1回あたりの施術単価が2万円
- 原価率が20%
- 月に何人来ていただけそうか
こうした数字を一緒に確認しながら、
「現実的に◯年以内に回収できるのか」
「回収が難しいハードルなのか」
を先生と一緒に考えます。その上で、
- 一括購入がよいのか
- リースがよいのか
- 銀行借入を利用した方がよいのか
を、手元資金や毎月のキャッシュフローを踏まえてご提案します。
医療機器の購入について、ここまで具体的に相談に乗ってくれる税理士かどうか――。
これは、これから事業を拡大したいとお考えの医療法人にとって非常に重要な見極めポイントです。
ポイント7.役員報酬の適正値を、根拠を持って示してくれるか
最後に、医療法人の先生にとって特に重要なのが、役員報酬の決め方です。
役員報酬の額は、
- 医療法人の税金
- ご自身の所得税・住民税
- ご家庭の生活費・教育費
- 将来の貯蓄・投資余力
- 借入返済や設備投資の余裕
など、多くの要素に影響します。
「前年と同じでいいか」「なんとなくこの金額で」という決め方をしてしまうと、後から
- 「法人にお金を残しすぎてしまった」
- 「個人の手取りが少なく、家計が苦しい」
- 「もっと早く分院や機械投資をしておけばよかった」
といった後悔につながることがあります。
平井公認会計士事務所では、役員報酬を検討する際、次のような情報を総合的に把握します。
- 医療法人の年間売上
- 売上原価率、人件費率、その他経費の水準
- 借入金・リース債務の返済額
- 理事長ご自身が他の医療機関から受け取る給与の有無・金額
- 不動産所得など、他の所得があるかどうか
- お子様の受験や私立医学部在籍など、今後の大きな支出予定
これらを踏まえ、「役員報酬を◯◯万円にした場合、
- 医療法人の税金
- 理事長個人の税金
- 手元に残るキャッシュフロー
がどう変化するか」を複数パターンで計算し、資料としてお示しします。
そのうえで、先生ご自身の価値観やライフプランも伺いながら、“数字にも現実にも無理のない役員報酬”を一緒に考えていきます。
おわりに
税理士は「医療法人の外部パートナー」ではなく「経営の伴走者」
ここまで、医療法人が顧問契約すべき税理士の条件として、
- 医療法人化の手続きができること
- 先生と同じ診療科のクリニックを複数顧問していること
- 記帳代行をしてくれること
- 給与や賞与について数字に基づいたアドバイスをしてくれること
- オンライン面談に対応していること
- 医療機器購入について、収益性や費用対効果などの相談ができること
- 役員報酬の適正値を、根拠をもって示してくれること
といったポイントをご紹介しました。
医療法人にとって税理士は、単なる「決算と申告の先生」ではありません。経営の数字を通じて、経営・投資・人事・将来設計まで一緒に考える“経営の伴走者”です。医療法人に精通し、しっかりアドバイスをしてくれる顧問税理士と提携できたら、先生は安心して医療事業に集中することができます。
【医療法人の顧問税理士についてお悩みの先生へ】
平井公認会計士事務所は、医科に特化した公認会計士・税理士事務所として、
- 医療法人化のご相談
- 顧問税理士の変更相談
- 医療機器投資のシミュレーション
- 役員報酬の見直しや資産形成
- スタッフ給与・賞与の設計
などについて日々ご相談をいただいております。
- 今の税理士に不満があるわけではないが、医療専門税理士の経営改善の意見も聞いてみたい
- 経営の数字の説明をもう少し丁寧にしてほしい
- 医療機器の購入や分院展開の相談に乗ってほしい
そのようなお気持ちが少しでもあれば、どうぞお気軽にお問い合わせください。先生の医療法人経営が、より安心して、より前向きに進んでいくお手伝いができれば幸いです。


