開業医の年収と手取り計算方法
- 2026.03.2|クリニック経営 成功への道

クリニックを開業し、経営が軌道に乗ってくると、税理士から先生方の耳には「所得3,000万円」「5,000万円」といった数字が届くようになります。
しかし、ここで絶対に混同してはならないのが、会計上の「事業所得」と、実際に先生の個人通帳に残る「手取り(キャッシュ)」の差です。
特に経営者を混乱させるのが、医師国保や国民年金といった社会保険料の存在です。これらは、クリニックの損益計算書(P/L:収益から費用を差し引いて、一年間の経営成績を示す書類)には「福利厚生費」や「法定福利費」という経費の項目としては一切登場しません。
なぜなら、社会保険料は事業の経費ではなく、先生個人の「所得控除(所得税を計算する際に、利益から差し引くことが許された額)」という扱いだからです。
個人事業主の先生は、基本的に厚生年金ではなく国民年金に加入されます。稀に、節税や資産形成のために個人事業とは別に会社(MS法人など)を設立し、その代表取締役として役員報酬を受け取ることで厚生年金に加入するケースもありますが、その場合でも、厚生年金保険料は事業所得の損益計算書(P/L)には一切出てきません。
損益計算書(P/L)だけを見て「これだけ利益が出ている」と安心していると、この「帳簿に載らない多額の現金流出」によって、納税時期にキャッシュが足りなくなるという「感覚のズレ」が生じるのです。
「税金を払う前」か「払った後」か:給与所得と事業所得の残酷な差
例えば、勤務医時代の「給与」と、開業後の「事業所得」が、同じ3,000万円であったとしても、その中身は「月とスッポン」ほどの違いがあります。この違いを理解することこそが、開業医として資産を築くための第一歩です。
- 給与所得者の場合(勤務医など):国から「給与所得控除(サラリーマンに認められた概算経費)」という、わずかな控除が認められているだけです。そして何より、給与所得者は「税金を払った後の現金」ですべての生活を賄わなければなりません。税金を払った後の、残り少なくなった手取りの中から、車を買い、パソコンを買い、携帯代を支払います。
- 事業所得者の場合(開業医):事業に直接必要なものであれば、「税金を払う前」に経費として差し引くことができます。車のガソリン代、高速代、出張での宿泊費、打ち合わせの食事代、お土産や贈答品の代金、パソコン代、携帯の通信費、水道光熱費、本代……。これらをすべて「経費」として差し引いた残りの所得に対して、初めて税金がかかるのです。
税金を払った後で支払いをするのか、経費を差し引いた後の所得に税金がかかるか。この「順番」の違いが、手元に残る資産の額に数倍の差を生み出します。開業医には、事業を成長させるために必要な支出を、税制の恩恵を受けながら行う権利が与えられているのです。
所得倍増の罠:手残りが1.8倍にしかならない「不都合な真実」
日本の税制は「超過累進税率(所得が高くなるほど税率が段階的に上がる仕組み)」です。稼げば稼ぐほど、国に持っていかれる割合が加速度的に増える仕組みです。
累進課税制度の正しい理解:55%の衝撃
現在、所得が4,000万円を超えれば、所得税45%+住民税10%=計55%となります。
ここでよく誤解されるのが、「所得が4,000万円を超えたら、すべての所得に対して55%がかかる」という恐怖です。実際には、4,000万円を「超えた部分」に対してのみ55%が課せられ、その手前の金額には低い税率が段階的に適用されます。
しかし、最高税率のレンジに達している事実に変わりはなく、追加で1万円稼いでも手元には4,500円しか残らないという現実は、経営者の資金感覚を狂わせます。
3,000万・5,000万・6,000万の具体的な比較シミュレーション
社会保険料控除を1,000千円(100万円)と仮定して、詳細な計算結果を見てみましょう(千円単位)。
- ① 事業所得 30,000千円(3,000万円)の場合 課税総所得 29,000千円に対し、所得税 8,988千円、住民税 2,901千円。 所得 30,000 - 社保 1,000 - 税金合計 11,889 = 手残り 17,111千円
- ② 事業所得 50,000千円(5,000万円)の場合 課税総所得 49,000千円に対し、所得税 17,616千円、住民税 4,900千円。 所得 50,000 - 社保 1,000 - 税金合計 22,516 = 手残り 26,484千円
- ③ 事業所得 6,000千円(6,000万円)の場合 課税総所得 59,000千円に対し、所得税 22,210千円、住民税 5,901千円。 所得 60,000 - 社保 1,000 - 税金合計 28,111 = 手残り 30,889千円
課税総所得は、社会保険料控除で1,000千円が控除されるので、事業所得から1,000千円が引かれた金額に税金がかかります。所得税や住民税の金額は、課税総所得から法律で決められた割合分になります。手残りは、事業所得から社会保険料を支払い、税金を支払った残りの金額になります。
ここで衝撃的な事実に注目してください。所得3,000万円と6,000万円を比べると、所得額は「2倍」になっていますが、税引き後の手残りは「1.8倍」にしか増えていません。
多くの先生は、所得が倍になると「生活も2倍、いや3倍贅沢しても大丈夫だろう」と気持ちが大きくなります。しかし、実際には1.8倍しか増えていないため、「稼いでいるはずなのに、以前よりお金が貯まらない」「むしろお金の欠乏感が増す」というパラドックスに陥ります。お金は「入ってくる方」よりも「出ていく方」のコントロールの方が遥かに難しいのです。
保険料の「必要経費」になるもの、ならないものの峻別
先生方が最も混同しやすく、かつ税務調査官が厳しくチェックするのが「保険料」の扱いです。「クリニックで払っているのだから経費だろう」という安易な判断は、将来の税務調査での追徴課税を招きます。
① 「必要経費」として認められる保険料の条件
事業所得の計算において、必要経費として認められるのは「その業務を遂行するために直接必要な費用」に限られます。
- 医師賠償責任保険料:これは医業を行う上で不可欠な保険であり、全額が必要経費となります。
- テナントの火災保険料・地震保険料:クリニックの建物や設備を守るための保険ですので、全額が必要経費です。
- 自動車保険(事業用割合のみ):往診や学会参加などで使用する車の保険料です。ポイントは「家事按分(かじあんぶん)」です。私生活でも使用している場合は、走行距離や使用日数に基づき、事業で使用している割合分だけを経費にします。
② 「必要経費」にならない保険料と所得補償保険の罠
多くの先生が驚かれるのが、以下の保険料が経費として認められないことです。
- 生命保険料:事業継続のために加入したという理由であっても、個人事業主の場合、生命保険料は必要経費にはなりません。上限付きの「所得控除」の対象にとどまります。
- 所得補償保険料:病気やケガで働けなくなった期間の収入減少をカバーする損害保険です。一見、事業の継続リスクをカバーするため必要経費と思われがちですが、実はこれも生命保険料控除の対象であり、必要経費にはなりません。税務上の判断は、「病気やケガによる休業時の個人的な所得補填」であるため、事業そのものから生じる経費ではない、とされます。もし保険金を受け取った際は「非課税」になるというメリットはありますが、支払時の経費性は認められないのです。
財務構造の急所:銀行返済の「非経費性」
利益が出ているのにお金がない。その最大の要因は、損益計算書(P/L)には載らない「借入金の元本返済のキャッシュアウト(現金の流出)」にあります。
銀行借入の「元本返済」は、なぜ経費にならないのか
銀行からお金を借りて通帳に入金された際、その金額に税金はかかりません。もし税金がかかるとしたら、税金を考慮して多めに借りる必要がありますが、現実は非課税です。しかし、その裏返しとして、銀行へ返済した「元本」は1円も経費になりません。
経費として認められるのは、銀行に支払うコストである「利息」のみです。つまり、元本返済は「税金を払った後の利益」から捻出しなければなりません。
この「返済の原資は税引き後利益である」という事実を無視して過度な借り入れを行うと、黒字であっても思った以上の税金を支払うことになるので、資金がショートする危険があります。
「真の手残り」を算出するキャッシュフロー経営の真髄
キャッシュフロー経営とは、帳簿上の損益計算だけで経営判断をするのではなく、現金の出入りを重視する経営手法です。キャッシュフロー経営を行うと、現金を残しやすくなり、クリニックの安定経営ができます。
真の手取りの計算方法
損益計算書(P/L)上の「利益」は、あくまで税金を計算するための指標であり、経営の実態を映す鏡としては不十分です。私たちは、以下の「真の手残り」を算出する計算式を重視します。
真の手残り = 事業所得 + 減価償却費(現金支出を伴わない費用) - 銀行元本返済 - 所得税・住民税 - 個人の社会保険料
減価償却費とは、高額な医療機器などの固定資産を購入した経費を、減価償却費の按分の仕方にはいろいろな方法がありますが、基本的には固定資産の耐久年数に応じて按分して毎年経費計上する方法です。
固定資産を購入した年は、キャッシュが出ていきますが、経費として処理できるのは年数で按分した一部になります。最初の年は現金が減るので苦しくなりますが、2年目以降は支払いをしていなくても経費を増やすことができるので、その分の現金が手元に残ります。
この式を見ると、いかに「減価償却費」という非資金費用がキャッシュフロー(現金の流れ)を助け、一方で「元本返済」や「社会保険料」という帳簿外の支出が経営を圧迫しているかが一目瞭然となります。
内部留保こそが、先生の理想を守る盾となる
よく、「利益が出たら税金を支払うので、経費を使った方が良い」ということを聞くと思います。ところが、その行為がクリニックの経営を不安定にする原因となります。「税金を払うくらいなら無駄でも経費を使ったほうがいい」という誘惑に負けてはいけません。
例えば、1万円を経費に使えば、手元の現金は1万円消えます。しかし、1万円を利益として残せば、税金で半分持っていかれたとしても、手元には半分強の純粋な現金が残ります。
この積み重ねこそが内部留保であり、将来の分院展開や、最新医療機器への投資、そして何よりご家族とスタッフを守り抜く唯一の原資となるのです。
まとめ:先生の「理想」を潰させない
以上、開業医の年収と手取りの計算方法について解説いたしました。
勤務医の年収と、開業医の年収とでは、意味が大きく異なることをご説明しました。また、年収が大きくなると年収が増えた割に手取りがそれほど多くならないことで、手元に残る現金の感覚がズレることもお伝えしました。
クリニックを安定経営にするためには、キャッシュフロー経営をすることが大切です。そして、クリニックに現金を多くの残し、将来に備えることも大切であることをお伝えしました。
こういったことを考慮して経営をしないといけませんが、難しいことはクリニック専門の平井公認会計士事務所に任せていただくと、クリニックの経営の数字をすべて把握し、先生の「参謀」として先生が納得できるようにアドバイスします。
開業はゴールではなく、先生の理想とする医療を体現するための手段に過ぎません。しかし、その手段が「お金の悩み」によって妨げられることは、日本の医療界にとっての損失です。
平井公認会計士事務所は、先生が安心して医療に専念でき、先生のクリニックが地域で愛される存在となるよう、財務・税務という強力な「武器」を提供し続けます。
父が45年かけて築き上げた診療所の経営を、間近で見てきた私だからこそ伝えられる「真実」があります。
すでにクリニックを開業させている先生で、「本気で手残りを増やし、盤石な経営基盤を創りたい」 そう決意された先生は、ぜひ一度、私たちの門を叩いてください。また、クリニックの開業を検討している段階で、事業計画書に問題がないかチェックしてほしい先生もお気軽にご相談ください。
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先生の理想の実現に向け、今日から伴走を開始しましょう。
※ 医科特化のため、歯科の先生は原則対応しておりませんのでご了承ください
(受付時間:9:00~17:30 土・日・祝を除く)


