クリニックの医療法人成りとは?法人化のメリット・デメリット
- 2025.12.2|クリニック経営 成功への道

クリニックの医療法人成りとは?
医療法人化のメリット・デメリットを専門家がわかりやすく解説【保存版】
クリニックの運営が軌道に乗ってくると、院長先生の多くが一度は考えるのが 「医療法人成り(医療法人化)」 です。医療法人成りとは、個人事業主から医療法人に改組することです。
医療法人成りは、節税に効果があるという印象が強いものの、実際には社会保険・福利厚生・組織づくり・将来の分院展開まで幅広く関わってくるため、慎重に判断したいテーマでもあります。
この記事では、専門的な内容をできるだけやさしく整理しながら、医療法人成りのメリット・デメリットや医療法人成りでメリットが出やすいクリニックの特徴などを丁寧に説明していきます。
医療法人成りをご検討中の先生は、ぜひ最後までご覧ください。
医療法人成りとは?まず知っておきたい基本
「医療法人成り」とは、個人で運営しているクリニックを「医療法人」という法人形態に移し替えることです。「医療法人化」ともいいます。
医療法人は、株式会社のように利益を配当に回すことはできませんが、その代わりに役員報酬・退職金・福利厚生といった形で院長自身や家族、スタッフに利益を還元できます。
医療法人化は節税目的だけでなく、
- 分院展開の準備
- スタッフ採用の強化
- 組織としての体制づくり
- 院長の将来資金の確保
といった場面でも力を発揮します。クリニックを多店舗展開させて、事業を安定化させたい先生にとっては、欠かすことのできないことです。
医療法人成りのメリット
節税・福利厚生・組織拡大まで幅広く効果がある
メリット1.所得分散で節税しやすくなる(累進税率の対策になる)
日本の所得税は累進税率といって、所得が増えるほど高い税率がかかる仕組みになっています。
クリニックの利益を院長一人にお給料として出していると、院長一人に収入が集中するので、税率が一気に上がってしまうため税負担が大きくなりがちです。
例えば所得(収入から経費を差し引いたもの)が1,800万円を超えると、所得税率が40%、4,000万円を超えると45%になります。さらに、これらに住民税が10%加わります。
医療法人成りする前は、院長一人に所得が集中することになるため、クリニック経営が順調で利益が大きい場合、院長の税率が高くなる傾向があります。
一方、医療法人では家族を役員にすることもできるため、個人経営しているクリニックを医療法人化することによって、役員報酬という形で所得を家族に分散し、家族全体の税率を抑えることができます。
つまり、医療法人成りする前は院長一人に所得が集中していたものを、医療法人成りすることで、所得を①医療法人、②院長、③院長家族1、④院長家族2、、、と複数人へ分散させることができるのです。すると、税引き後の世帯収入が増えます。
また給与には給与所得控除(給与を受け取る人に自動的に認められる“みなし経費”のような仕組み)が使えるため、個人事業のままよりも節税効果が出やすくなります。
医療法人成りする前の段階では、院長は自身のクリニックからの「給与」というものがありません。院長が自分に「給与」を払う、という考え方が税務上ないからです。あくまでも、院長はクリニックの収入から経費を引いた利益から生活費をまかなうことになります。
このように、医療法人成りする前の段階では「給与」がないため、「給与所得控除」(みなし経費)もない、ということになり、それだけ多くの税金を払うことになります。
メリット2.院長や配偶者も使える福利厚生が増える
医療法人になると、福利厚生制度を整えて院長や配偶者(役員)も対象にできる場面が増えてきます。
よく使われる制度としては、
- ① 社宅制度(家賃の一部を法人が負担)
- ② 旅費規程(出張時の交通費・日当を非課税で受け取れる)
- ③ スタッフと同じ福利厚生制度を活用
- ④ 条件を満たした法人契約の生命保険を経費にできる場合がある
などがあります。
これら①~④について詳しく解説いたします。
① 社宅制度(家賃の一部を法人が負担)
医療法人では、法人名義で賃貸物件を契約し、院長や役員・従業員へ「社宅」として貸し出すことができます。
社宅制度を活用すると、家賃の一部を法人が負担する形にできるため、社宅制度を利用する人の手取りが実質的に増えます。例えば、院長の自宅をクリニックの社宅に変更して、院長に貸しているようにすると、院長個人の手取りが実質的に増えます。
社宅制度のポイント
- 法人が家賃を払い、そのうち院長が「一定の基準額」を負担
- 基準額は税務上の計算式で決まっており、個人が全額負担するより金額を抑えられる
例えば、月20万円の賃貸物件でも、社宅制度を使うと院長は10万円以下の負担で済むケースがあり、残りを法人が負担できます。
② 旅費規程(出張時の交通費・日当を非課税で受け取れる)
旅費規程とは、「出張時の交通費・宿泊費・日当をどのように支給するか」を決めた社内ルールのことです。
これを作成しておくと、“日当”を非課税(個人に税金をかけない状態)で受け取ることができるため、院長にもスタッフにもメリットがあります。
旅費規程でできること
- 出張交通費・宿泊費を法人が負担
- 適正額の日当(1日3,000~10,000円程度)を非課税で受け取れる
- 宿泊費は実費ではなく旅費規程で定めた金額(社会通念上妥当な金額)で受け取れる
- クリニック見学・講習会・学会・機器の打ち合わせも対象になる
例えば、学会出張を1泊2日で行った場合、交通費・宿泊費に加えて非課税の日当が2日分支給でき、実質的な手取りが増えます。
これらの費用は、法人としては必要経費として処理でき、個人としては非課税で受け取れます。
③ スタッフと同じ福利厚生制度を院長や役員も活用できる
医療法人になると、スタッフ向けに用意している福利厚生を、院長や家族役員にも同じ条件で適用できるようになります。
これは「医療法人は院長も従業員と同じ“会社の一員”として扱える」という大きな特徴です。
活用できる福利厚生の例
- 健康診断(人間ドック含む)
- 予防接種
- 慶弔規程(祝い金・弔慰金など)
- 資格取得補助
- 書籍購入費
- 制服・白衣クリーニング
- 福利厚生サービス(スポーツジムなど)
個人事業では院長本人の支出は“事業主の私的支出”とみなされやすいですが、医療法人では役員・従業員という立場になるため、福利厚生を適用しやすくなります。
- スタッフにだけ福利厚生があると不公平に感じる
- 院長や配偶者も同じ福利厚生を受けたい
といった院長の声から、医療法人化のきっかけになるケースもあります。
④ 条件を満たした法人契約の生命保険を経費にできる場合がある
医療法人では、特定のタイプの生命保険を契約すると、保険料の一部を経費にできる場合があります。
法人保険のポイント
- 法人が契約者になる
- 被保険者は院長や役員
- 保険料の○%を経費にできる、というものがある
- 将来の退職金の原資に活用できる
- 解約返戻金が戻るタイプもあるため、資金準備として使いやすい
福利厚生を整えることで税負担が軽くなるだけでなく、「働きやすいクリニック」という印象が強まり、スタッフ採用や定着にも良い効果が期待できます。
メリット3.減価償却費を調整できる(任意償却)
医療法人になると、設備などの減価償却費を“今年は計上する・来年に回す”というように調整できるようになります。これは任意償却と呼ばれる仕組みです。
個人事業では、減価償却を必ず計上しなければならないため、この柔軟性は大きな違いです。
例えば、儲かった年に減価償却を増やして税負担を抑え、翌年に利益が落ちたときは減価償却を減らすなど、状況に応じてコントロールでき、税負担の低減とクリニック経営の安定化ができます。
メリット4.赤字を10年間繰り越せる(個人は3年)
医療法人は赤字を10年間繰り越すことができます。個人事業の場合は 3年 なので、比較するととても長い期間です。
例えば、ある年に設備投資をして大きな赤字が出た場合でも、その赤字分を長期にわたって利益と相殺できるため、節税の余地が大きくなります。
メリット5.院長に退職金を支払える(大きな資産形成になる)
医療法人は院長に退職金を支給できます。退職金は税制上とても優遇されているため、長年働いた院長にとっては強力な老後資金になります。
退職金制度をうまく使うと、同じ額を役員報酬として受け取るよりも手取りが増えるケースが多く、個人経営の院長にはない大きなメリットです。
メリット6.分院展開や介護事業に進出できる
個人事業では分院を持つことができませんが、医療法人であれば
- 複数のクリニック展開
- デイサービスや訪問介護などの介護事業
にも取り組めます。複数のクリニック展開をすることは、収益を増やすことが目的だけではありません。ある店舗でスタッフが急に休んでも、別の店舗のスタッフを融通できるようになるため、クリニック運営がしやすくなります。スタッフに休みやすい環境を作ることも、スタッフにとっては魅力的です。
また、医療法人はデイサービス等の介護事業もできるので、「患者さんのステージに合わせて長く支えたい」「医療と介護の連携を進めたい」という院長には、とても相性が良い制度です。
メリット7.消費税の負担が1年~1年数か月軽くなるケースがある
医療法人の1期目が7か月以内であれば、「特定期間」が発生しません。特定期間とは、消費税の課税事業者になるかどうかを早期に判断する期間のことです。
「7か月以内」とは、例えば医療法人の決算の期末を12月に設定した場合、6月に設立をすれば、1期目は6月から12月までの7か月しかありません。そのように、1期目を7か月以内に決算を迎えるようにすると、1期目と2期目は消費税の負担が軽くなります。
また、たとえ7か月を超えていても、
- 設立から半年間の課税売上が1,000万円未満
- 給与・役員報酬が1,000万円未満
であれば、消費税の課税事業者にならない場合があります。
美容皮膚科・美容外科など自費の多いクリニックでは、消費税の影響が大きいため、設立時期の調整がとても重要になります。
医療法人化のデメリット
メリットだけでは判断できないポイントもある
デメリット1.厚生年金への加入が必須(負担が増える)
医療法人になると、院長やスタッフは必ず厚生年金に加入しなければいけません。国民年金より負担は大きくなるため、毎月の支出は増える方向になります。ただし、将来受け取れる年金額は増える可能性があります。
スタッフの人数が多いクリニックでは、事業計画や資金繰り計画を立てて、医療法人成りにメリットがあるのかを検討することが大事です。平井公認会計士事務所では、事業計画等のご相談にも対応しています。
デメリット2.医療法人成りにあたって認可申請の手間や費用がある
医療法人を設立するには、都道府県知事の認可が必要です。そのための書類作成やスケジュール管理には、どうしても時間と費用がかかります。
平井公認会計士事務所では、医療法人成りにあたっての認可申請書類、保健所、厚生局への提出書類の作成支援をしております。また、作成支援においては、極力、院長の負担がかからないようにしております。
当事務所のような支援をしているコンサル会社等に依頼することで、許可申請の手間を大幅に軽減できます。
デメリット3.保健所へ毎年決算書を提出する必要がある
個人事業では必要のない手続きですが、医療法人になると毎年、保健所へ決算書等を提出しなければなりません。
平井公認会計士事務所では保健所への提出書類の作成も行っております。
デメリット4.法務局での登記が必要になる
医療法人は
- 毎年、資産の総額を登記
- 通常2年に一度、役員の重任(再任)登記
を行う必要があります。
司法書士への依頼や登録免許税などの費用がかかるため、ランニングコストとして考えておく必要があります。
平井公認会計士事務所では、ご要望がございましたら法務局登記を行っていただく司法書士をご紹介することができます。
デメリット5.交際費には上限がある
医療法人は、交際費を好きなだけ経費にできるわけではありません。
特に「出資持分なしの医療法人」では、「純資産額×60%>1億円超」になると、交際費として認められる金額に上限がかかることがあります。
個人事業と比べると少し制限があるため、この点は注意が必要です。
平井公認会計士事務所にて医療法人成りをご支援するときは、交際費の上限額についても、院長に解説しています。
デメリット6.解散時には残った財産を寄附しなければならない
医療法人には「出資持分ありの医療法人」と「出資持分なしの医療法人」の形態があります。正確な表現ではないですが、すごくシンプルに記載しますと、「出資持分ありの医療法人」とは院長(出資者)が株のような権利を持っている医療法人のことをいいます。
平成19年(2007年)4月1日以降は「出資持分なしの医療法人」しか設立できません。
「出資持分なしの医療法人は」解散時に財産が残っていれば寄附する決まりになっています。ただし、実務では役員報酬や退職金の調整によって、残余財産がなるべく残らないように運営するのが一般的です。
医療法人の解散は、院長の人生計画とも関係のあることですから、平井公認会計士事務所では医療法人成りのご支援だけでなく、院長の生涯に渡る資産形成などのご相談にも対応しています。
医療法人成りでメリットが出やすいクリニックの特徴
以下のようなクリニックは、医療法人化によるメリットが出やすい傾向があります。
- 安定して年間2,000万円程度以上の利益がある
- 分院開設や介護事業を検討している
- 家族に適正に業務を手伝ってもらっている
- 老後の資金形成を計画的に進めたい
- 福利厚生を充実させて働きやすい職場づくりをしたい
逆に、利益や資金繰りが不安定な場合は、法人化を急ぐ必要はありません。まずは、平井公認会計士事務所によるクリニックの事業を安定させるためのご支援をご検討ください。
まとめ:医療法人成りは節税だけで判断しないことが大切
医療法人成りには多くのメリットがありますが、同時に事務作業や社会保険料の負担も増えます。“節税だけ”で判断するのではなく、クリニックの今後の方向性や働き方、院長の将来設計まで踏まえて検討するのが安心です。
当事務所では、医療法人化のタイミング診断や、法人化した場合の税額試算、役員報酬の設計、福利厚生規程の整備までサポートしています。「当クリニックは医療法人成りをした方がいいのだろうか?」「当クリニックは、医療法人成りでどれだけ節税ができるだろうか?」など、気になっている方は、まずは一度ご相談いただければと思います。


