勤務医がクリニックを承継開業して損しないための6つのチェックポイント
- 2026.05.15|クリニック経営 成功への道

「クリニックをゼロから立ち上げる新規開業よりも、すでに多くの患者様がついている継承(承継)開業の方が、収益の見通しが立ちやすく安心だ」
昨今、このように考えて承継案件を熱心に探す勤務医の先生が非常に増えています。
確かに、開業初日からレセプト枚数が一定数確保されており、熟練したスタッフも揃っている環境は、立ち上げの苦労を知る者からすれば、非常に魅力的な選択肢に見えるはずです。
しかし、平井公認会計士事務所が数多くの承継現場のデューデリジェンス(資産査定)に立ち会ってきた経験から申し上げれば、承継開業には「目に見えない巨大なリスク」や「時限爆弾のような負の資産」が山ほど隠されています。
「こんなはずじゃなかった」という後悔を先生にさせないために。本コラムでは、勤務医の先生がクリニックを承継開業する際、単なる情報の羅列ではなく、実務でどう活用すべきかという視点から、財務・税務・法務のチェックポイントを丁寧に解説します。
チェックポイント1.
【土地・建物】定期借地権の「残余期間」と賃料設定の裏側
最初のチェックポイントは、借地の契約についてです。土地がクリニック所有ではなく、地主から土地を借りている「借地」である場合、真っ先に確認すべきは定期借地権の契約残存期間です。
先生が引退するまで、その場所で診療を続けられますか?
先生が今後30年以上はこの場所で診療したいと考えている場合、土地の契約期間は死活問題です。
- 契約更新不可の恐怖:契約の種類が「更新なし」となっている場合、期間満了とともに建物を自費で取り壊し、更地にして地主に返還しなければなりません。働き盛りの時期に拠点を失うリスクを回避するため、契約期間の残りと更新の可否を厳格にチェックする必要があります。
譲渡側の先生が「大家」であり続ける理由とリスク
承継後も、クリニックの建物が譲渡側の先生個人の所有のままであるケースは非常に多いです。なぜなら、譲渡側の先生にとって、譲渡後も入ってくる賃料は、引退後の人生を支える「安定した貴重な収入源」だからです。
この背景があるため、賃料設定が相場より不当に高く設定されていないかを確認することが不可欠です。平井公認会計士事務所では、近隣の不動産業者に相場を確認してもらうなど、設定された賃料が適正範囲から乖離していないかの確認を促します。
賃料は永続的に払い続けることになるので、不当に高いと、経営が不利になります。
先生が納得できる適正な条件で合意を目指すための、重要な注意喚起とアドバイスを提供します。
チェックポイント2.
【医療機器・内装】「承継直後の追加投資」という隠れたコスト
クリニックの譲渡対価として提示される「〇〇〇万円」という数字に惑わされてはいけません。譲渡後に大きなメンテナンス費用が発生する可能性もあります。
医療機器の「保守供給期限」という落とし穴
高額なCTやMRIなどは、部品の供給期限が迫っていることがあります。
- 数千万円の追加支出リスクへの備え:承継して1年後に故障し、「部品がないため修理不能。新型(5,000万円)に買い替えてください」と言われるのは承継現場の「あるある」です。
こうしたリスクを回避するため、メーカーや業者へ「保守パーツの供給期限はいつまでか」を必ず確認するように注意を喚起いたします。その上で、将来の追加支出を資金繰りシミュレーションに組み込み、先生が納得して決断を下せるようサポートします。
「深層リフォーム」の見落としは経営を揺るがす
承継を検討する際、大事なのは「承継後、そのクリニックをどう改装したいのか」というビジョンを明確にし、事前に設計士などと打ち合わせをして、費用概算を出してもらうことです。
売買代金の交渉だけに時間を奪われず、開業後の改装費用を把握しておくことが、その後のキャッシュフローを分ける生命線となります。
チェックポイント3.
【組織・人】「人件費率30%超え」への対策とソフトランディング
承継で最も難しく、かつ失敗の原因になりやすいのが「人(スタッフ)の給料」の問題です。
「賞与の給与化」という潮流と業績連動への移行
旧来のクリニックでは「賞与は基本給の4か月分」といった固定支給が慣習化されていることがありますが、現代の経営において、これは大きなリスクです。
- 固定化された賞与のリスク:賞与が固定されていると、売上の減少やスタッフの増加があっても一律定額の支給が約束されているため、業績の変化に柔軟に対応できません。
- 賞与から給与へ:昨今、世の中全体で「賞与の給与化」という流れがあり、不安定な賞与よりも月々の給与を上げる傾向にあります。こうした情勢の変化を踏まえ、社会保険労務士と連携して「賞与は業績連動であり、従来の固定給的なものではなくなる」という説明を行い、同意書にサインをもらう等のソフトランディングが必要です。
平井公認会計士事務所では、先生に対するアドバイスだけでなく、スタッフへの給与説明などの実務にも対応しています。
「潜在的な退職金負債」の調整
既存スタッフを引き継ぐ場合、例えば勤続20年の看護師を承継し、2年後に退職した場合、先生は「22年分」の退職金を払わなければなりません。
平井公認会計士事務所では、承継時点での「自己都合退職金相当額」を算出します。この金額を、譲渡価格の「調整材料(マイナス要素)」として提示します。
なぜなら、新院長である先生は、本来前院長が支払うべきであった20年分の退職金支払い義務という「目に見えない負債」をセットで引き受けることになるからです。
この負債分を譲渡代金から差し引く論理的な裏付けを提示し、先生が公平な条件で契約できるよう支援します。
このような条件なども踏まえて譲渡対価が妥当かを判断する必要があります。
チェックポイント4.
【法務リスク】競業避止義務:「善意」による患者奪取を防ぐ
譲渡契約において、絶対に妥協してはいけないのが競業避止義務の条項です。競業避止とは、譲渡側の医師が患者様を連れていかないことの約束です。
譲渡した先生が、親切心から「私の新しい勤務先においで」と患者様に声をかけてしまうことで、新院長の患者様が流出するトラブルが絶えないからです。
平井公認会計士事務所では、譲渡契約においてその内容を入念にチェックし、競業避止については「半径〇km以内、〇年間は同一診療科での診療を行わない」といった義務を盛り込むようアドバイスし、先生が買い取った資産を守り抜きます。
チェックポイント5.
【税務・制度】出資持分の「あり・なし」と基金返還の戦略
医療法人の承継において、まず理解しなければならないのが医療法人の形態です。
医療法人の二つの形態:出資持分「あり」と「なし」
- 出資持分ありの医療法人:平成19年3月以前に設立された法人に多く、出資者(理事長など)が法人の財産に対して、自分の出資割合に応じた財産権(持分)を持っている法人です。
- 出資持分なしの医療法人(基金拠出型など):平成19年4月以降に設立された法人はすべてこちらです。財産権という概念がなく、代わりに「基金(ききん)」という制度が用いられます。
「持分あり」における贈与税リスク(みなし贈与)
出資持分がある法人の場合、財産の蓄積により、その持分の価値(評価額)が数億円に膨らんでいることがあります。もし、この「評価額1億円」の持分を、合意の上で「1,000万円」で譲り受けたとします。税務署は差額を「プレゼント」とみなし、受け取った先生に多額の贈与税を課す恐れがあります。
第三者間取引では合意価額が尊重される傾向にありますが、リスクはゼロではありません。
平井公認会計士事務所では、事前に退職金を支給して評価額を下げることで、リスクを極力小さくするスキームを提案します。
「持分なし」における「基金」返還と戦略的資金繰り
出資持分なしの医療法人の承継では、譲渡代金は「退職金」として前理事長や理事に支給されるため、そのための借入は医療法人で行います。
しかし、「基金返還請求権(拠出したお金を返してもらう権利)」の譲渡は、あくまで個人間売買です。つまり、「持分なし」医療法人を承継する先生は、この権利を購入する必要があるため、その資金を、自己資金または個人借入で調達しなければなりません。
ここで活きてくる情報が、返還の要件です。福岡県の場合、「設立5年超、かつ利益の蓄積(利益剰余金)が基金額以上」になれば、基金を返還してもらえます。
平井公認会計士事務所では、基金拠出契約書から「基金返還ができる時期」を確認し、「いつ個人に現金が戻り、個人借入を完済できるか」というシミュレーションを作成します。これにより、先生は個人で負うリスクの出口を明確にした状態で、安心して承継に踏み出すことができるのです。
チェックポイント6.
【承継の真価】開業後の「トータルキャッシュフロー」での比較
最後に、重大なチェックポイントを解説します。それは、クリニックの資金繰り、キャッシュフローについてです。
勤務医の先生の多くは、クリニックを承継するかどうかは、開業時の「初期コスト」の数字だけを見て、「新規開業するよりも安いかどうか」だけで判断しがちです。
しかし、「新規開業コストと承継のためのコスト(売買金額、退職金額など)が同程度」である場合、承継開業の方が、開業後数年間のスパンで見れば資金繰りが圧倒的に楽になる可能性があります。
なぜ承継の方が「圧倒的に楽になる可能性」があるのか
- 「のれん(営業権)」の節税効果:「のれん」とは認知度や患者数というクリニックの「目に見えない価値」です。承継するときは、のれんの価値に相当する代金も払います。個人クリニックを承継した場合、これを承継後から5年間で均等に経費(償却)にできるため、所得税を劇的に抑えられます。
- 「繰越欠損金」による無税期間:承継時に前理事長に多額の退職金を支払うと、大きな赤字(欠損金)となります。この赤字は翌年以降最大10年間にわたって繰り越せ、将来の利益と相殺が可能です。数年間法人税を一切払わなくて済む場合があります。
まとめ:生きた比較検討を
クリニックを承継するときに、クリニックが「負の遺産」となってしまわないためのチェックポイントを6つだけご紹介しました。
クリニックを承継開業すると、実質的なコスト低下要素に加え、初日から患者様がいるという収益の安定性があります。それに対して、定期借地権や承継後の追加投資、退職金、契約内容などを入念にチェックしておかないと、後でトラブルになることが多いです。
これらのチェックポイントは、基本となるものですが、他にも承継後の資金繰りについて、市場の変化など、さまざまな点をチェックする必要があります。
平井公認会計士事務所では、単なる初期費用の比較ではなく、開業後の数年間を見据えたトータルキャッシュフローのシミュレーションを行い、先生の人生のステージを一段階上げるための「生きた戦略」を提供します。
クリニック経営支援・税務なら平井公認会計士事務所
継承開業はショートカットに見えますが、チェックポイントでご紹介した落とし穴を一つ踏むだけでも後悔することになりかねません。
医療専門の平井公認会計士事務所は現場の真実を暴き、先生の未来を守ります。父が46年かけて築き上げた診療所の経営を、間近で見てきた私だからこそ、またいくつもの承継開業を支援してきた私からこそ伝えられる、現場のリアルに基づいた承継開業支援があります。
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