個人クリニックを親子承継できないときの対策は?閉院と第三者譲渡との分岐点を解説
- 2026.05.13|クリニック経営 成功への道

はじめに:クリニックの「終わり方」は、院長先生の人生の総決算である
「自分が築き上げ、地域に根ざしてきたこのクリニックを、いつかは子供に継がせたい」
開業医の先生であれば、誰もが一度は抱く願いです。中には、親から引き継いだ二代目、三代目の先生もいらっしゃり、「自分の代で歴史を途絶えさせるわけにはいかない」という強い使命感をお持ちの方も多いでしょう。
しかし、現実は非情です。
子供が医学部を目指さなかった、あるいは医師にはなったものの、大学病院での高度な専門医療に没頭しており、地域医療の現場であるクリニック承継に関心を示さない……。こうしたケースは、今や珍しいことではありません。
また、仮に子供に継ぐ意志があったとしても、クリニックが位置する地域の将来予測を冷静に分析した結果、「子供に継がせるべきではない」と判断せざるを得ない局面もあります。
医療専門の平井公認会計士事務所として、多くの開業医の現場を見てきた私から申し上げれば、「子供への承継ができない」と分かった瞬間から、先生の出口戦略(エグジット戦略)は、時間との戦いになります。
本コラムでは、個人クリニックの親子承継が困難になった際の二つの大きな選択肢、「閉院(廃業)」と「第三者譲渡(M&A)」についてメリットやデメリットを比較し、その手続き、コスト、そして法的リスクをわかりやすく解説します。
「クリニックを閉院させる」と決めた先生は、閉院の支援を誰かに依頼し、このコラムで述べるような大きな失敗をしてしまう前に、平井公認会計士事務所までご相談ください。
1.個人クリニック承継・引退パターンの整理
現在、個人事業主として経営しているクリニックが、子供への承継という選択肢がなくなった場合、先生が取るべき道は非常にシンプルです。それは、「クリニックを潰す(閉院)」か、「誰かに渡す(譲渡)」かの二択です。
| 現在の状態 | 出口①:閉院(廃業) | 出口②:第三者譲渡(M&A) |
|---|---|---|
| 個人診療所 | 診療所を廃止し、資産を処分する | 他の医師や医療法人へ事業を譲る |
今回のコラムでは、この「個人診療所における閉院と譲渡」の具体的な中身について深掘りし、「自院はどちらを選ぶべきなのか?」を解説していきます。
2.選択肢①:個人診療所を「閉院」する場合の現実
閉院は、「誰にも譲らず、自分の代で静かに幕を引きたい」という選択です。しかし、クリニックの閉院は、単に看板を下ろせば済む話ではありません。実は、閉院には数百万から1,000万円前後のキャッシュアウト(持ち出し)が発生することが多いのです。
2-1. 閉院にかかる撤去費用
閉院にかかるコストには、原状回復費用(スケルトン戻し)の費用と、医療機器や薬品の処分費用がかかります。
原状回復費用(スケルトン戻し)
クリニックが賃貸物件に入居している場合、内装をすべて解体・撤去し、打ちっぱなしコンクリートが見える状態、つまり「スケルトン状態」にして、大家さんに返却する義務があります。医療機関の内装解体は特殊な廃棄物も多く、撤去に要する坪単価が高額になります。無床診療所でも数百万円、規模によっては1,000万円を超える見積もりが出ることも珍しくありません。
次の借主が医師だったら、そのまま使ってくれる可能性があり、稀に「原状回復しなくて良い」となりますが、そのようなことはまず起こりません。
医療機器・薬品の処分
医療機器は中古市場で売却できる場合もありますが、中古品を買いたいというクリニックは少ないため、中古市場が極めて限定的です。買い手がつかないものは、産業廃棄物として高額な処分費用を払って廃棄することになります。また、処分すべき薬品があれば、専門の業者に依頼することになり、種類や量によっては高額になりがちです。
2-2. 有利子負債の精算と「医師個人の責任」
ここが最も重要なポイントです。個人診療所の場合、院長先生個人とクリニックの経済実態は同一視されます。
一括返済の原則
銀行からの借入金や医療機器のリース残債は、閉院(事業廃止)と同時に期限の利益を喪失し、一括返済を求められるのが原則です。「期限の利益の喪失」とは、借入金やリースなどの分割返済をする権利(期限の利益)を失い、借入金の残額を一括返済しなければならなくなることです。
負債の継続
クリニックの資産を売却し、手元の現金をすべて投入しても負債が残る場合、その残債は「医師個人の負債」としてそのまま残り続けます。医療法人のように、法人を解散・清算すれば負債が消える(連帯保証がない場合)という仕組みとは根本的に異なります。
個人事業主のクリニックを閉院して負債が残りそうな場合は、先生が非常勤の医師を続けて返済していく必要性も考慮することになります。
2-3. 返済が困難な場合の法的整理と専門家コスト
もし負債が多額で、閉院後の収入や貯蓄での返済が困難な場合、弁護士を介した債務整理を検討しなければなりません。
任意整理とリスケジュール
弁護士が銀行と交渉し、利息のカットや返済期間の延長を協議します。この交渉には弁護士への着手金や報酬が必要となります。
自己破産・個人再生のリスク
最終的な手段として自己破産を選択する場合、医師免許自体は失いませんが、一定期間の資格制限(破産管財人事件となる等)や、信用情報の毀損による新規の借入・クレジットカード利用の制限が生じます。
専門家費用の負担
こうした法的整理には、弁護士費用だけで数十万円から、債権者数によっては100万円単位の費用がかかります。「お金がないから閉院するのに、閉院するための手続きにお金がかかる」という、極めて過酷な状況に陥るリスクがあるのです。
場合によっては、閉院するための費用が捻出できなくて、閉院したくても閉院できないクリニックもあると思います。そのような状況にならないためにも、できるだけ早めに当事務所のようなクリニック経営の専門家にご相談ください。
3.閉院時の行政手続きスケジュール:6ヶ月前からのカウントダウン
個人診療所を閉院する場合、厚生局、保健所、税務署、年金事務所など、多岐にわたる行政機関への届出が必要です。期限が「5日以内」「10日以内」など非常に短いものもあるため、計画的な準備が不可欠です。
3-1. 閉院時の主要な届出・提出書類一覧
クリニックを閉院させるためには、主に次のような届出が必要となります。
| 提出書類 | 提出期限 | 提出場所 |
|---|---|---|
| 診療所廃止届 | 閉院の日から10日以内 | 所轄の保健所 |
| 診療用エックス線装置廃止届 | 同上 | 同上 |
| 保険医療機関廃止届 | 速やかに | 管轄の地方厚生局 |
| 生活保護法指定医療機関廃止届 | 速やかに | 管轄の地方厚生局 |
| 麻薬施用者業務廃止届 | 閉院の日から15日以内 | 保健所(都道府県薬務課) |
| 適用事業所全喪届(社会保険) | 閉院の日から5日以内 | 所轄の年金事務所 |
| 雇用保険適用事業所廃止届 | 閉院の日から10日以内 | ハローワーク |
| 労働保険確定保険料申告書 | 閉院の日から50日以内 | 労働基準監督署 |
| 個人事業の廃業届出書 | 廃業日から1か月以内 | 税務署・都道府税事務所 |
3-2. スタッフと患者様への誠実な対応
解雇予告
スタッフには少なくとも閉院の3~6ヶ月前には告知すべきです。労働基準法上は30日前までの予告ですが、再就職を支援する時間的猶予を与えるのが「医療人としての道義」です。
そのときに、何も計画を立てていない状態で、スタッフに閉院することを伝えないようにしてください。事情のわからないスタッフが混乱するだけです。
患者様の転院紹介
かかりつけ医としての責任として、適切な紹介先を確保し、診療情報提供書を作成する労力と時間も計算に入れておかなければなりません。
大家さんに退去を連絡
閉院のタイミングは、緊急性を要しない場合は、テナント契約の更新時期に合わせることが多いです。スケルトン状態に戻すまでの工事期間もあるため、テナント契約期間よりも前に閉院することになります。大家さんには、閉院のことや撤去工事が入るタイミングをなるべく早めに伝えておいた方が良いです。
4.閉院後の「重い」保管義務:診療記録の管理
閉院後も、院長先生には法律上の保管義務が残り続けます。
| 診療記録 | 保管期間 |
|---|---|
| 診療録(カルテ) | 5年間(医師法24条) |
| レントゲンフィルム・検査記録 | 3年間 |
| エックス線装置の測定結果記録 | 5年間 |
| 麻薬帳簿 | 2年間 |
現実的には、医療事故の時効(最大20年)を考慮し、自宅や倉庫に膨大な資料を保管し続ける負担が生じます。電子カルテを利用している場合は、電子カルテをPDFデータなどに変換して改ざんされたり破損したりしないように保管します。現実的ではありませんが紙に印刷して保管する方法もあります。
5.選択肢②:個人診療所を「第三者譲渡(M&A)」する場合
子供が継がないのであれば、閉院よりも先に検討すべきなのが「第三者への譲渡」です。第三者への譲渡とは、クリニックをそのままの状態で、第三者の先生や医療法人に譲渡する方法です。
閉院が「コストを払って資産を捨てる」行為であるのに対し、譲渡は「営業権(のれん代)を含めた対価を受け取り、資産を活かす」行為です。来院している患者様がいるので、看板を引き継げるのであれば、そのクリニックは資産になります。
5-1. 「カルテ引継ぎ」は個人情報保護法違反にならないか?
第三者譲渡で最も多い懸念が、「患者の同意なくカルテを新しい先生に渡していいのか」という点です。
結論から言えば、個人情報保護法第27条5項2号に基づき、事業の承継に伴う提供は「第三者提供」に該当しないため、個別の同意は不要です。これにより、法的にカルテ情報をスムーズに引き継ぐことが可能です。
5-2. 第三者譲渡の圧倒的なメリット
第三者譲渡は、閉院と比較して多くのメリットが得られます。
負債の一括返済が不要になるケース
譲受側の医師や法人が設備ごと引き継ぐ場合、債務の引き受けや、売却代金での一括返済が可能になり、先生個人の経済的負担がなくなります。また、現状回復の費用も必要なくなります。
譲渡対価の受領
これまで築き上げた患者様や地域の信頼を「営業権」として評価し、リタイア資金を得られます。クリニックを新規で立ち上げるよりも、すでに来院してくださる患者様がいる方が、クリニックを始めたい先生にとっては有利なわけです。
社会的責任の継続
スタッフの雇用が守られ、患者様も通い慣れた場所で治療を継続できます。
クリニックの「出口」に悩む先生へ
~ 医療専門の平井公認会計士事務所からのメッセージ ~
クリニックを閉院するという決断は、先生がこれまで捧げてきた医療人生に対する一つの区切りです。しかし、その区切りが「多額の持ち出し」や「債務整理の悩み」で終わってほしくありません。
ここで覚えておいてほしいことは、クリニック閉院の支援をどこに相談するかによって、先生の運命が分かれてしまう場合があることです。一般的な会計事務所は、閉院の「手続き」はしてくれますが、先生にとって最適な状態を考えてくれるところは少ないことが現状です。
しかし、医療専門の平井公認会計士事務所は、「先生の人生を最大化する出口(未来の設計)」を提案します。
- 今のクリニック、閉院するのと譲渡するのでは、手元に残るお金にいくら差が出るのか?
- 借金が残るリスクを、どのように最小化できるか?
- スタッフや患者様に、最も感謝される幕引きとは何か?
開業医である父が46年かけて築き上げた診療所の経営を、間近で見てきた私だからこそ伝えられる、現場のリアルに基づいた支援があります。
5年以内に日本一のクリニック顧問先数を目指す私たちの知見を、ぜひ先生の人生の総決算に役立ててください。
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自院を「子供に継がせない」と決めたその日が、新しいスタートラインです。まずは一度、平井公認会計士事務所の無料相談(オンライン対応)にて、先生の理想の「出口」を聞かせてください。
先生の理想の実現に向け、今日から伴走を開始しましょう。
※ 医科特化のため、歯科の先生は原則対応しておりませんのでご了承ください
(受付時間:9:00~17:30 土・日・祝を除く)


