クリニック開業までの1年間のスケジュール
- 2026.01.26|クリニック経営 成功への道

理想のクリニックを実現する「開業2年前」からの戦略術:経営の成否を分ける“裏”の急所を徹底解説
「いつかは自分のクリニックを」――そう志した医師にとって、開業準備は未知の領域の連続です。勤務医として日々の診療に追われる中で、物件探し、資金調達、スタッフ採用、そして複雑な行政・税務の手続き。これらを場当たり的に進めてしまうと、開院直前に資金が底をついたり、スタッフ間のトラブルが発生したりと、経営の根幹を揺るがす事態を招きかねません。
開業したてのクリニックを安定軌道に乗せるための鍵は、開業準備を単なるタスクの消化と捉えず、「経営者としての冷徹なリスク管理と逆算のスケジュール」を組むことにあります。
本コラムでは、医科特化の会計事務所として多くのクリニック開業を支援してきた実務データに基づき、開業2年前から当日までに「何を」「いつ」すべきか、そして「どこで多くの医師が致命的な失敗をするのか」というマニアックな実務視点を含めて、クリニックの開業スケジュールを徹底解説します。
【開業24ヶ月以上前】「表面的な理想」を捨て、十分な時間を確保する
開業を考え始めてから、実際にクリニックをオープンするまでに、理想としては24ヶ月以上の期間を確保していただきたいと考えています。
なぜ「24ヶ月」必要なのか
他の書籍やウェブサイトでは「9ヶ月で可能」と謳っているものもありますが、それでは十分な検討ができず、開業業者の言いなりになってしまうリスクがあります。
私は先生に絶対成功してほしいと願っていますし、開業を焦らせるようなことはしたくありません。
この時期には、まず信頼できる開業コンサルタントや会計士を選定し、並行して開業地やテナント、あるいは事業承継案件の徹底的な調査を行います。この伴走車選びと開業地選びで、クリニックの成否のほとんどが決まるようなものなのです。
「開業場所」や「承継案件」の選定を誤ると、後から挽回することは極めて困難です。場所を移転することはほぼ不可能ですので、後悔のないよう、ここには十分な時間をかけてください。
事業承継という選択肢:仲介会社の言葉を鵜呑みにしない
近年、既存のクリニックを引き継ぐ「事業承継」を選択する先生が増えています。事業承継は、新規開業に比べて「開業当初からの患者数が予想しやすい」という大きなメリットがあります。しかし、仲介会社の説明だけで判断するのは極めて危険です。
- 経営状況の真実:譲渡側のクリニックが本当に承継に値する収益力を持っているか、信頼できる税理士・会計士による分析(デューデリジェンス)が不可欠です。
- 隠れたコスト:譲渡金額の妥当性はもちろん、譲渡後に発生するであろう建物の改修代金や、老朽化した医療機器の更新費用を考慮しなければなりません。平井公認会計士事務所は、新規開業だけでなく、事業承継による開業実績も多数有しております。
「開業費」という魔法の資産
開業前に費やした消耗品、広告費、セミナー代、打ち合わせの交通費などはすべて「開業費」として資産計上できます。これは、個人・法人を問わず「任意償却(好きな時に好きなだけ経費にできる)」が可能な極めて強力な節税武器です。利益が出た年に一気に償却して納税額を抑える戦略的なコントロールが可能になります。
開業費に該当するものを購入や消費したときは、領収書を正しく取得しておいてください。
【開業12ヶ月(1年前)】事業計画の完成と融資相談の開始
開業場所や承継案件が決まったら、速やかに詳細な事業計画を作成します。そして、遅くとも開業の1年前には銀行融資の相談を開始してください。
この段階では、融資を受けられるか不確定ですので、物件や承継の契約が仮契約、もしくは銀行融資が受けられなかった場合には契約は成立しない旨の条項を付与してください。
融資の金額は、物件契約後に策定する事業計画で決定するからです。また、物件契約を終えてから「融資が出ませんでした」ということがないようにするために、銀行融資の相談を開始しておくわけです。
銀行融資の相談では、どのようなことを話したら良いのかわからないと思います。提携した開業コンサルタントや会計士といっしょに銀行に赴いてください。
融資判断の厳格化への対応
以前に比べて銀行の融資判断は厳しくなっており、審査に時間がかかるケースが増えています。そのため、一社だけでなく複数の銀行などの金融機関と接触し、条件を比較検討する時間的余裕が必要です。
その余裕もスケジュールに組み込んでおくことが大事です。
物件選定後の事業計画:医療機器は「まず大枠」で
物件選定を終えたら、速やかに事業計画の策定に入ります。
この段階では、医療機器の詳細を詰める必要はありません。融資が実行されるか未確定な時期に機器選定に時間をかけすぎ、全体の進捗が停滞するのは本末転倒だからです。
まずは大枠の予算を掴む程度で進め、融資決定後に詳細を詰めていくのが、スピード感のある開業準備の鉄則です。
銀行審査を突破する「自己資金」と「強み」
- 自己資金の準備:金融機関は先生の自己資金を非常に重視します。目安として融資総額の10%、理想を言えば20%程度は自己資金として準備できるよう貯蓄に励んでください。自己資金の厚みは、計画性や開業への意欲を示すバロメーターとなります。
- 強みの資料化:事業計画書には診療圏分析だけでなく、勤務医時代の専門分野、症例実績、学会での講演歴など、「先生自身の強み」を具体的に示す資料を必ず添付してください。
先生によっては、不動産などの購入で借金を多くされている方もいらっしゃいます。そういった方は、銀行融資が不利になることもあるので、必ず専門の会計士などにご相談ください。
資金調達の金額は余裕をもって
金融機関から調達した資金は、開業準備に利用するだけではありません。開業後にクリニック経営が黒字化するまでに必要な経費をまかなう金額も調達します。
調達した資金を開業準備でほぼ使い切ってしまったら、基本的に追加融資を金融機関に依頼することになります。追加融資が間に合わずに、クリニックを開業してすぐに倒産することもあります。
そういったトラブルを防ぐために、事業計画を策定するときに、余裕をもった金額を調達できるように計画を立ててください。
事業計画の策定方法については、「クリニック開業で資金調達しやすい事業計画書の内容とは?」をご参照ください。
【開業8~6ヶ月前】資金調達と「青色事業専従者」の厳密な設計
事業計画をもとに資金を確保しますが、その返済を有利にするための対策をします。また、この段階で「身内の雇用」についても法的なシミュレーションを完了させておく必要があります。
融資の要諦:銀行借入を優先し、元本据置を活用する
医療機器はリースでも導入できますが、資金繰りを考えれば銀行借入が圧倒的に有利です。
1,000万円の機器を5年リースすれば年200万円の支出ですが、20年返済の銀行借入なら年50万円で済みます。
また、開業後1年は患者数が安定しないため、利息のみを支払う「元本据置期間」を1年程度設定する交渉を会計士と共に行ってください。
青色事業専従者給与の「正確な」要件把握
配偶者に給与を支払う「青色事業専従者給与」は、大きな節税メリットがありますが、要件は極めて厳格です。
- 実態の伴う従事:生計を一にする親族で、12月31日現在で15歳以上であること。その年を通じて6ヶ月を超える期間(一定の場合は2分の1超)、専ら事業に専従している(他でメインの勤務がない)ことが必須です。
- 届出の厳守:「青色事業専従者給与に関する届出書」を開業から2ヶ月以内、または3月15日までに管轄の税務署へ提出していることが条件です。
対価の妥当性:給与の額面が届出額の範囲内であり、かつ労務の対価として「適正な金額」である必要があります。過大な部分は必要経費として認められません。
【開業6~4ヶ月前】組織の骨組みと「社会保険」の戦略的選択
資金調達ができ内装工事の業者を決め、近隣の開業医にご挨拶を済ませ、スタッフ採用の準備に入ります。スタッフの採用では「情」に流されない冷徹な判断が求められます。
社会保険適用事業所の検討
常勤従業員が5人以上の個人事業所(医科)は、社会保険への加入が強制されます。一方、5人未満の場合は加入しない選択も可能ですが、優秀な人材確保のためにあえて任意加入する戦略もあります。
加入する場合、額面給与の約15%(法定福利費)をクリニックが負担するため、この負担増を含めた資金繰りのシミュレーションが不可欠です。
スタッフ採用の「致命的失敗」:前職スタッフの引き抜き
開業前の勤務先からスタッフを引き抜いてくるパターンは警戒すべきです。
開業前は「同僚」でしたが、開業後は「雇う人」と「雇われる人」に変わります。引き抜いたスタッフは「特別意識」を持ちやすく、他の職員に高圧的になったり、医師に対して過剰な条件を要求してくることがあります。声をかける前に、必ず社会保険労務士等と基本給や労働条件などを固めてください。
【開業3~2ヶ月前】広報戦略と行政手続きの「波」
物件の内装工事が進んで開業の目処が立ち、融資が決まったら、地域社会へのアプローチと申請などを開始します。
看板による「認知」と「牽制」
賃貸借契約等が済んだら、開業地に看板を立てることをお勧めします。地域住民への認知効果はもちろん、近隣で開業を検討している他の医師への強い牽制になります。
また、町内会の顔役へご挨拶に伺うことも、地域での活動をスムーズにします。新規建築の場合は、「棟上げ」や「餅まき」も認知度を高め、先生の人柄を伝える絶好の機会です。
複雑な「届出」は専門家へ依頼する
保健所への「診療所開設届」、厚生局への「保険医療機関指定申請」、税務署等への「開業届出」などは非常に煩雑です。先生お一人で申請書類を作成することは、「まず出来ることではない」と覚えておいてください。
記載ミス一つで開院日がずれ込むリスクがあるため、医療機器販売会社、薬品卸会社、行政書士、そして当事務所のような税理士・会計士事務所といった専門家チームへ全面的に依頼し、先生は診療の準備に集中できる環境を整えてください。
【開業1ヶ月前~当日】実務の細部と「守り」の固め
開業まで、いよいよカウントダウンです。このときがもっとも忙しくなります。
電子カルテの準備を行い、スタッフを雇い、消耗品をそろえ、スタッフの仕事内容を決めてロールプレイングをします。開業直前に内覧会を開催し、近隣の方々にクリニックの開業をお知らせします。
そして、開業直後の経営を安定させるための「仕掛け」を完了させます。
消費税還付と「調整対象固定資産」の3年間制限
開業時の多額の設備投資にかかる消費税の還付を受けられる、「消費税課税事業者選択届出書」を提出する手法があります。
ただし、課税事業者となった最初の2年間中に、税抜100万円以上の固定資産(調整対象固定資産)を取得した場合、取得年を含めて3年間は「免税事業者に戻れない」「簡易課税を選択できない」という制限がかかります。その後の消費税負担を考慮した精緻な判定が必要です。
リスク管理:事業保障とクレジットカード
借入返済を守る「事業保障の生命保険」への加入は不可欠です。死亡時だけでなく、介護状態(働けなくなった場合)への保障があるものを選んでください。
また、事業用クレジットカードを作成し、プライベートと明確に分けることで、将来の税務調査時の心証を良くし、事務を効率化できます。
スタッフ教育と入金管理
スタッフが勤務を始めたら、業務の流れを院長と考え、スタッフの仕事内容を決めていきます。このときに、クリニックの経験者を雇うことができたら理想的です。
窓口負担金の入金・レジ管理を徹底指導してください。当事務所では受付スタッフへの伝達をサポートしています。自動精算機を導入すれば管理が適切に行え、業務を大幅に削減できます。これらは補助金の対象となる場合もあるため、必ず業者へ確認してください。
ふるさと納税は控えめに
開業初年度は年間の所得予測が困難です。そのため、ふるさと納税の限度額を超えてしまい、単なる寄付になってしまうリスクがあるため、初年度は控えめにとどめるのが賢明です。
クリニックを開業して、1年目の決算前に利益がどれだけ出そうかを会計士と相談して、ふるさと納税の金額を決めることをおすすめします。
結び:伴走者の存在が成功率を変える
クリニック開業までのスケジュールと、そこで起こり得ることを解説いたしました。クリニック開業で失敗しないためには、どのような開業コンサルタントに支援を依頼するかによって決まるようなものです。
クリニックの開業準備はマラソンと同じです。適切なペース配分と、次に何が起こるかを予見してくれる「ガイド」の存在が不可欠です。
平井公認会計士事務所は、医科特化のプロフェッショナルとして、先生の理想を「数字」と「戦略」で形にします。
- その事業計画、事業承継の落とし穴や先生の強みは反映されていますか?
- 奥様の給与設定やスタッフの採用条件、本当に大丈夫ですか?
- 煩雑な行政届出、信頼できる専門家に依頼できていますか?
平井公認会計士事務所に相談するタイミングは、「クリニックを開業させたい」と考えたときです。まずは一度、先生の描く未来をお聞かせください。
「日本のクリニックが、安心して医療に専念できる未来を。」
平井公認会計士事務所が、貴院の最良のパートナーとして伴走いたします。
※ 医科特化のため、歯科の先生は原則対応しておりませんのでご了承ください
(受付時間:9:00~17:30 土・日・祝を除く)
※ 本コラムは一般的な情報提供を目的としており、個別の税務・経営判断については必ず当事務所等の専門家へご相談ください。


