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クリニック経営 成功への道

医療法人に税務調査が来る時の準備とは?

医療法人に税務調査が来る時の準備とは?

医療法人を運営していると、いつかは必ず意識することになるのが「税務調査」です。医療法人化をしていない個人経営のクリニックでも、税務調査の対象となることはあります。

  • 「いつ、どのような流れで税務調査が来るのか」
  • 「何を聞かれるのか」
  • 「どこをどの程度まで見られるのか」

こうしたことがわからないままクリニック経営をしていると、どうしても不安だけが膨らんでしまいます。

税務調査は、決して「悪いことをしたから入る」ものではなく、医療法人がきちんと税法に沿って申告しているかを確認するための、公平・中立な手続きです。

本コラムでは、医科クリニックに特化している平井公認会計士事務所が、

  • 税務調査の前に準備しておきたいこと
  • 税務調査当日の院長先生の対応ポイント
  • スタッフへの事前周知の仕方
  • 日頃から整理しておくと安心なチェックポイント

を、できるだけ穏やかなトーンで整理してお伝えします。

※ 税務署の方がご覧になってもご納得いただけるように、対立的な表現や「税務署対策」というより、「適正申告と円滑なコミュニケーションのための準備」としてまとめています。

税務調査前にしておきたい「事前準備」

税務調査は、いきなり税務調査官の方々がクリニックに押し寄せてくるのではなく、事前に通達があります。そのため、少しの準備期間があります。

まずは、税務調査に入る前に医療法人側で準備しておきたい実務的なポイントについて解説いたします。いずれも、適正な経理処理をしていることをスムーズに説明するための準備とお考えください。

(1)領収書・請求書・総勘定元帳などの書類準備

  • 税務調査対象期間の領収証や請求書等をご準備ください。
  • 総勘定元帳はプリントアウトしてご用意ください。

税務調査を受ける場所(会議室や院長室など)を事前に決めておくとスムーズです。

(2)従業員の労働契約書の確認

  • 全従業員分の労働契約書をご用意ください。

給与台帳と契約内容が一致しているか確認できると、調査もスムーズに進みます。また、従業員の勤務実態の根拠となるタイムカード等を提出できるようにしておくとよいです。

(3)院内・院長室・金庫周りの整理整頓

  • 机・書棚・金庫内、院長室などの整理整頓をお願いします。
  • 業務と無関係な私物は極力持ち帰るか、ロッカー等に保管し、不要なものはこの機会に処分しておきましょう。(医療情報や個人情報の管理という意味でも有益です)

(4)現金関連帳簿と実際残高の一致

  • 金銭出納帳など、日々締めている帳簿は、調査直前日までの記録を完了してください。
  • 帳簿残高と手元現金(レジ金、小口現金)が一致しているかを必ず確認しておきましょう。

(5)パソコン・メールデータの整理

  • パソコン内のフォルダや電子メールも、業務と関係ない私的なデータが混ざっていないか確認をお願いします。
  • 税務・会計・医療情報に関するデータは削除せず、適切に保管しつつ、明らかに不要な私用メールや重複ファイルなどは整理しておくとよいでしょう。

(6)福利厚生規程の整備

  • 理事が人間ドックを受けている場合
  • スタッフが割安価格で化粧品やサプリを購入できる場合
  • 割安で美容施術を受ける機会がある場合
  • 永年勤続表彰制度(長年勤務した従業員に対し、感謝と労いの気持ちを伝えるための制度)で記念品を渡す場合

これらは、適切に運用すれば福利厚生として認められる可能性がある制度です。そのため、

  • 福利厚生規程の整備
  • 適用範囲や金額基準の明確化

をしておくと、税務調査の場でも説明しやすく安心です。

(7)事前確定届出給与・理事会議事録の確認

  • 事前確定届出給与に関する理事会議事録を整えておいてください。
  • 宿泊や交通費を伴う理事会は、議事内容や参加者が分かるように、特に議事録をきちんと残しておくことをおすすめします。
  • 親族(父母やお子様など)に役員報酬を支給している場合には、経営に参画していることが分かるよう、理事会議事録や職務内容を整理しておくと説明しやすくなります。

(8)事前訪問と模擬質疑応答

顧問税理士に依頼して、

  • 帳簿や院内の整理状況の確認をご依頼ください。
  • 税務調査に向けた模擬質疑応答をしていただくことをお勧めします。


税務調査時に院長先生へ聞かれやすい質問

実際の税務調査では、帳簿の前にまずクリニックの概況を把握するためのヒアリングがあります。代表的な内容は次のとおりです。

  • 卒業大学
  • 開業までに何年勤務医として勤務していたか
  • 現在の診療科を選んだ理由
  • 現在の開業場所を選んだ理由

また、以下のような家族や背景についても聞かれる場合があります。

  • ご出身地
  • ご両親のご出身
  • お子様が通学している学校・大学 など

こうした質問は、プライベートな支出と事業の経費の線引きが適切かを確認する一環として行われることがあります。(例:お盆や年末年始の帰省、家族に会いに行く旅費・飲食費など)

さらに、

  • スタッフの人数
  • 福利厚生として計上しているお弁当の数 など

も聞かれます。スタッフ数と福利厚生費のバランスを見ることで、法人の規模や福利厚生制度の運用状況を把握するための参考情報とお考えください。

いずれも、「何かを疑われている」というより、クリニックの全体像や運営体制を理解するための質問と受け止めていただくとよいと思います。

税務調査時の院長先生の対応ポイント

税務調査当日は、院長先生が税務調査官の方々とどのように接したら良いのか、どのように返答したら良いのか、気になることでしょう。税務調査当日の院長先生のスタンスについて、いくつかポイントをまとめます。

(1)落ち着いて、前向きな姿勢で

  • 税務調査官の方も、決められたルールに基づいて仕事をされています。
  • 指摘や質問に対しては、前向きな気持ちで淡々と対応することが大切です。
  • 感情的になったり、必要以上に構えたりする必要はありません。

(2)回答は「事実ベースで、簡潔に」

  • 質問に対する回答は、質問内容に限って、事実だけを簡潔にお伝えください。
  • 趣味や休日の過ごし方などが話題に上がった場合も、趣味と仕事の支出が混ざらないよう、普段から経費計上の線引きを意識しておくことが安心につながります。

(3)分からなければ、率直に「確認します」でOK

  • 質問内容や提出依頼の趣旨がよく分からない時は、遠慮なく確認してかまいません。
  • 「担当が違うので確認して回答します」「後ほど資料を用意してご説明します」とお伝えすれば大丈夫です。
  • 後で何を確認して報告するのか、用意する資料は何かを控えておてください。

(4)見解が分かれる論点の扱い

  • 税法解釈には、どうしても見解の分かれるグレーゾーンが存在します。
  • そうした論点については、まず調査官の考え方を最後までお聞きし、メモを取ったうえで、クリニックとしての考え方を、裏付け資料とともに冷静にお伝えすることが大切です。

(5)必ず税理士と同席する

  • 税務調査官から事情聴取を受ける場面では、院長先生お一人で対応することは避けてください
  • 平井公認会計士事務所が顧問税理士をしているクリニックでは、当事務所の担当者が必ず一緒に同席させていただきます。

(6)資料提出とデータの取り扱い

  • 書類を提出した場合には、何を提出したか控えを残すようにしましょう。
  • パソコン本体を自由に操作していただくのではなく、「どのデータ・どの期間を確認したいか」をお聞きしたうえで、該当するファイルのみこちらで開いて画面をお見せする、または必要に応じて印刷してお渡しする対応が望ましいです。
  • 会計ファイル等についても、法令上電子提出が義務付けられているもの以外は、基本的には紙ベースでの提出にとどめるなど、情報管理の観点からも丁寧に対応していきます。
  • 帳簿や領収書・契約書等の原本については、原本紛失のリスクを避けるため、持ち帰りではなくコピーや写真撮影で対応いただく形をお願いしています。
  • 金庫や引き出しについても、「ご覧になりたい内容」を伺ったうえで、該当する資料のみを取り出してお見せする形が、医療情報や個人情報の保護の意味でも望ましい対応です。


スタッフの皆さんへの周知事項

税務調査は、院長先生だけでなく、スタッフの方々にも関係する場面があります。あらかじめ以下のような点を共有しておくと、院内全体が落ち着いて対応できます。

(1)税務調査の位置づけを共有する

  • 「税務調査は定期的に行われるもので、法人にとっては特別なことではない」
  • 「税務調査=悪いこと(脱税)をしている、という意味ではない」

ということを、事前にお伝えください。

調査の目的は、『会計処理が税法に沿って適切に行われているか』を確認することです。平井公認会計士事務所が顧問税理士をしているクリニックでは、先生お立合いの元、当事務所の担当者がスタッフの方々に丁寧にご説明するようにしています。

(2)院内の整理整頓

  • 各自の机・書棚・バックヤードの整理整頓をお願いします。
  • 私物はできる限り持ち帰るかロッカー等に片づけ、明らかな不用品はこの機会に処分しましょう。
  • 金銭出納帳など日々締めている帳簿は、調査直前日まで入力を完了させ、帳簿残高とレジ金等の実際残高が合っているか確認してもらいます。

(3)税務調査官からスタッフへ質問があった場合の対応

スタッフの方に税務調査官から質問がある場合もあります。税務調査当日までに、次の点をお願いしてください。

  1. 分かる範囲で、事実のみ、簡潔に回答する
  2. 分からないことは無理に答えず、「担当が違うので、確認してからお答えします」とお伝えする
  3. その場で判断したり、書類をお渡ししたりせず、「院長(または税理士)に確認します」とお伝えする
  4. 受けた質問の内容は必ずメモを取り、その後院長先生に共有する
  5. 調査対応の主体はあくまで院長先生と顧問税理士であり、スタッフの皆さんの負担は最低限で大丈夫であることを伝える


日頃から整えておくと安心な「チェックポイント」

ここからは「こう指摘される」というより、日頃から整えておくと、結果的に税務調査でも安心なポイントとしてご覧ください。

  • 院内制服代が高額・頻繁な場合は、実際に院内で使用している業務用であるか確認しておく
  • 労働契約書と給与台帳に整合性があるかをチェックしておく
  • 商品券や贈答品について、相手先・金額・目的を明確にしておく
  • Amazonなどで購入した日用品について、事業用と私用をクレジットカードを分けるなどして区分しておく
  • スタッフ向けの化粧品販売や施術割引等は、
    • 仕入価額以上、かつ売値の70%以上の負担になるように販売する
    • モニター採用の場合は感想文など業務性の記録を残しておく
  • 役員の人間ドック・健康診断費用は、福利厚生規程に基づき、全体のバランスや金額が過大でないか確認しておく
  • 固定資産台帳と現物が一致しているか、定期的に確認しておく
  • 医療法人成りの際の資産・負債の引継ぎ処理や消費税の扱いを、専門家と整理しておく
  • 医療法人の社宅としていない個人自宅の庭の剪定代・清掃代などが、法人で計上されていないか確認する
  • 車両について、業務利用と私用利用を区分し、往診・送迎・通勤に使う車の実態を説明できるようにしておく
  • 接待交際費について、相手先・目的・必要性を記録し、金額も常識的な範囲に収まっているかをチェックしておく
  • 従業員旅行を実施する場合は、
    • 日程が4泊5日以内であること
    • 参加率が50%以上であること
    • 旅行案内、参加者リスト、請求書等を保存しておく
  • 医療法人から院長への貸付金については、返済計画と返済の実績を明確にしておく
  • 相続に関する相談料・申告料は、事業経費としてではなく、相続財産側の費用として扱うのが原則であることを理解しておく
  • 関連会社(MS法人)への外注費・コンサル料は、業務の実態と金額水準を資料で説明できるようにしておく

いずれも「税務署に指摘されるから」というより、もともと税法上求められているルールに沿っているかを確認するための自社チェックと捉えていただくとよいと思います。

税務調査対象に選ばれるイメージ(参考)

最後に、一般論としてよく言われることですが、

  • 同業他社と比較して、ある勘定科目の経費が極端に多い
  • 数年比較で、特定科目が大きく増減している
  • 利益率が大きく変動している

といった法人は、調査候補として選ばれやすい傾向があります。近年は、こうした選定にもAI等のシステムが活用されていると言われています

ただし、これはあくまで一般的な傾向であり、「どこかがおかしいから調査に入る」というよりも、「数字の動きから、きちんと確認しておいた方がよさそうな法人を機械的に選んでいる」と理解しておくとよいでしょう。

税務調査の不安や事前チェックは、医科専門のプロにご相談ください

ここまでお読みいただき、

  • 「うちのクリニックの処理は大丈夫だろうか…」
  • 「一度、専門家の目でチェックしてもらいたい」
  • 「税務調査の連絡が来たので、具体的に相談したい」

と感じられた先生もいらっしゃるかもしれません。

平井公認会計士事務所は、医科クリニック・医療法人に特化した公認会計士・税理士事務所です。

  • 医療法人の税務調査立会い
  • 調査前の事前レビュー・模擬質疑応答
  • 法人成り時の処理確認
  • 福利厚生規程・役員給与・関連会社取引の整理

など、医科クリニックならではの論点に絞ってサポートしています。

▼初回相談のご案内

  • 税務調査の通知が来た段階
  • まだ通知はないが、将来に備えてチェックしておきたい段階

いずれの場合でも、平井公認会計士事務所までお気軽にご相談ください。平井公認会計士事務所は福岡県にありますが、オンライン相談で全国の医療法人に対応しています。

先生が診療に集中できるよう、税務面の不安を一つずつ一緒に整理してまいります。

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